煉獄魔法

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煉獄魔法

 魔王の怒りに、世界は揺れる。  空は暗雲に覆われ、地は震え悲鳴をあげる。 「ウ……ウルリカ様……?」  カーミラを抱えたまま、倒れて動けないオリヴィア。そこへ、生き残っていた数体のインプが襲いかかる──。 「「「ギイィッ!」」」 「させません! やぁっ!」  間一髪、夜の闇にきらめく白銀の剣。そしてバッサリと切り裂かれるインプ。  オリヴィアの窮地に駆けつけたのは、ヨグソードを構えたナターシャだ。  ナターシャから少し遅れて、シャルロットもオリヴィアを助けに現れる。 「オリヴィア! 助けに来ましたわよ!」 「サーシャ……シャルロット様も……」  戦いをナターシャに任せて、シャルロットはオリヴィアを助け起こそうとする。しかし、インプとの戦いでフラフラなオリヴィアは、なかなか立ちあがることが出来ない。 「頑張ってオリヴィア、早くここから離れますわよ!」 「え……?」 「出来るだけウルリカから離れた方がいいですわ。オリヴィアの危機を知って、怒り心頭ですのよ」 「あ……だったら叔父も……」  フラフラと立ちあがりながら、オリヴィアは叔父の方を指差す。ボロボロで倒れている叔父は、しかしどうやら、まだ息をしているようだ。  そこへちょうど、インプを片づけたナターシャも合流する。 「分かりました、あちらの方は私に任せてください!」 「でしたらワタクシは、オリヴィアを連れて先に退避しますわね!」  素早く役割分担をして、シャルロットはオリヴィアを、ナターシャは叔父をバラ園から連れ出す。  それを快く思わないのはアルベンス伯爵だ。バラ園から逃げていく四人を、殺気のこもった視線で睨みつける。 「ちぃっ、逃がすわけには──」 「どこを見ておるのじゃ……?」 「──っ!!」  慌てて振り返るアルベンス伯爵。振り返った理由は、声をかけられたからではない。  ウルリカ様の発する、強大な魔力と殺気に反応したのだ。 「なんという凄まじい魔力……貴様は何者だ?」 「妾はウルリカじゃ。生贄にされようとしていたリヴィの友達なのじゃ……」 「友達だと?」 「そうじゃ……」 「なるほど、友達を助けに来たというわけか、ずいぶん友達思いなことだな。しかし残念だったな、貴様は友達を助けることは出来ない!」  怒れるウルリカ様を前にしても、アルベンス伯爵は怯まない。強力な魔力を操り、空中に魔法陣を描いていく。 「確かに貴様の魔力は強大だ。しかし、我の魔力はさらに上をゆく!」  そして再び空中に現れる、巨大な魔法陣。 「──召喚魔法、サモンゲート──!」  インプを召喚した時とは、比べ物にならない魔力を放つ魔法陣。バラ園へと滴り落ちる、巨大な黒い魔力の塊。 「ズオォ……」  現れたのは、獅子の頭に鷲の足を持つ、巨大な怪物だ。 「どうだ、恐ろしかろう? 我の使役する最強の悪魔、その名も“魔人バズウ”だ! 討伐難易度Aに相当する本物の化け物だぞ!!」 「ズオォォッ!!」  背中に生えた四枚の翼を羽ばたかせ、魔人バズウは強力な暴風を巻きおこす。 「これで終わりではないぞ!」  さらにアルベンス伯爵は、空中に魔力を集中さていく。集まった魔力は熱を帯び、紫色の炎へと姿を変える。ドロドロに地面を溶かすほどの、超高温の悪魔の炎だ。 「──紫炎魔法、デスフレア──!」  アルベンス伯爵の手を離れ、炎は一直線にウルリカ様へと襲いかかる。魔神バズウの発生させた暴風とあわさり、巨大な紫色の炎の渦を作り出す。 「これこそ我の真の力だ! 貴様ごとき塵も残らんぞ!!」 「ズオオォォッ!!」  バラの生け垣を飲み込みながら、ウルリカ様へと迫る炎の渦。しかしウルリカ様は、じっと立ったままピクリとも動かない。 「フハハハッ! 暗黒の炎に飲まれて死ねぇっ!!」  そして、炎の渦に飲まれようかという、まさにその瞬間──。 「……ゴチャゴチャとうるさいのじゃ……」  小さく呟くウルリカ様。  と同時に、身を屈めグルリと体を回転させる。もはや目で追うことすら出来ない、超高速の回し蹴りである。  ウルリカ様の放った回し蹴りは、バラ園のバラ全てを散らせてしまう程の威力だ。  アルベンス伯爵の炎など火の粉のように吹き消されて、跡形も残りはしない。 「……は?」 「ズォ……」  渾身の一撃をあっさり吹き消されるという、あまりにも信じ難い光景を前にして、アルベンス伯爵も魔神バズウも完全に動きを止めてしまう。  静まり返ったバラ園に、ウルリカ様の声が重く響き渡る。 「リヴィを酷い目にあわせたお主を、妾は絶対に許さんのじゃ……」 「な……バカな……!?」  ようやく我に返るアルベンス伯爵。魔人バズウは、ウルリカ様の底知れない力に身をこわばらせて動けない。 「暗黒の炎と言っておったな……ならばお主には、本物の“暗黒の炎”を見せてやるのじゃ……」 「ひぃっ!?」  ようやくアルベンス伯爵も、ウルリカ様の力に恐怖を感じる。  しかし、時すでに遅く──。 「──煉獄魔法、デモン・ゲヘナ──!」  放たれた漆黒の炎は、悪魔も魔人も、全てを飲み込む。
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