深夜の執務室 その四

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深夜の執務室 その四

 深夜。  吸血鬼も寝息を立てる時刻。  ゼノン国王の執務室に、薄っすらと明かりが灯っていた。 「はぁ……」  ソファに腰かけるゼノン王は、深い深いため息をつく。その様子を、対面に座るルードルフは心配そうに眺めている。 「お疲れのご様子ですね」 「いや……疲れているわけではないのだ……」  そう言うとゼノン王は、再び「はぁ……」と深いため息をつく。疲れてはいないと言いつつも、顔色はあまり優れない。 「アルベンス伯爵の件でな……」 「ああ、なるほど……」 「まさか我が国の貴族に、悪魔が潜んでいたとは……くそっ」  悪態をついたゼノン王は、勢いよく酒の入ったグラスをあおる。普段よりも荒々しい態度を見るに、どうやらかなり酒に酔っているようだ。 「悪魔なんぞに我が国の領地を……大切な国民の命を預けていたとはな。しかもそれに、長年気づかなかったとは……考えただけで、己の愚かさに反吐が出る!」 「飲みすぎですよ、陛下」 「これが飲まずにいられるか、なあルードルフよ?」 「まあ確かに、お気持ちは分かりますよ」  ルードルフもゼノン王にあわせて、酒の入ったグラスを一気にあおる。しかしゼノン王とは違い、ルードルフに酔った様子はない。いたって平静を保ったまま、落ちついた口調で話を続ける。 「吸血鬼とは比較にならぬほど、悪魔は恐ろしい存在だとされています。今回の事件は、まさにそれを物語っていますね」 「悪魔でありながら貴族を名乗り、生贄を使って儀式を企てるとは……間違いなく悪魔とは、吸血鬼を超える邪悪な生き物だと、今回の件で確信した」 「生贄を使った儀式ですか……なにを目的とした儀式だったのか、これは大きな懸案事項ですよ」 「アルベンス伯爵領の統治を誰に任せるか、他の貴族への対応をどうするか、頭を悩ませることだらけだ……」  空になったグラスに、ゼノン王は酒を注ぎ足す。静かな執務室に、カランッとグラスの鳴る音が響く。 「それで陛下は、どのように対処されるおつもりで?」 「ひとまずはオリヴィアの叔父から、事情を聞いているところだ」 「オリヴィアの叔父ですか?」 「オリヴィアの叔父はアルベンス伯爵の正体を知ったうえで、今回の事件に加担したらしいからな。どこでどのように悪魔と繋がりを持ち、そしてどのような会話を交わしたのか、洗いざらい吐いてもらうつもりだ」 「なるほど……」  注いだばかりの酒を、一気に飲み干すゼノン王。そしてニンマリと、怪しい笑みをルードルフへ向ける。 「そうだルードルフよ、いいことを思いついたぞ」 「いいこと? なんでしょうか?」 「いっそウルリカに頼んで、国中の悪魔を一掃してもらうのはどうだ?」  ウルリカ様に丸投げな、なんとも呆れた提案に、ルードルフは「はぁ……」とため息で返事をする。 「陛下……飲みすぎで()()になっていますよ……」 「む……そうか?」 「そうですよ、今日はもうお終いです」 「あっ、おい……」  ゼノン王が止める間もなく、ルードルフは酒の瓶をサッと取りあげてしまう。 「待てルードルフよ、もう一杯だけ──」 「明日は朝から執務ですよ? 寝坊は許しませんからね?」 「ぐうぅっ……ルードルフめ……」  執務室に響く、恨めしそうなゼノン王の声。  こうして、ロームルス城の夜は更けていく。
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