奇跡

1/1
前へ
/310ページ
次へ

奇跡

 まだまだ続く、クリスティーナの特別授業。  クリスティーナの立てた目標を達成するべく、生徒達は広い校庭のあちらこちらに散らばって、一生懸命に魔法の練習をしていた。 「風よ! 風よ! はぁ……はぁ……ダメだわ……」 「私もダメ……やっぱり簡単に階梯をあげるなんてムリよ……」  苦戦している生徒達の間を歩きながら、クリスティーナは一人一人に助言をして回る。 「あなたは不自然な魔力の流れをしている……体の中を流れる魔力を意識して……水のように流れる魔力を想像して……」 「やってみます……あっ、出来ました!」 「あなたは杖の使い方を間違えている……杖の先まで体の一部だと思って……魔力の筋を杖の先端まで伸ばすの……」 「杖の先端まで……わぁっ、成功しました!」  クリスティーナから助言をもらった生徒は、次々に目標としていた魔法を成功させていく。一流の魔法使いなだけあって、クリスティーナの教え方は非常に分かりやすい。しかしそれでも、半数以上の生徒達はコツを掴めないでいる。  そんな中クリスティーナは、一部の男子生徒の態度にイライラを募らせていた。 「クリスティーナ様―! 魔法をうまく使えませんー!」 「俺もですー! 個別指導してほしいですー!」  明らかにわざと魔法を失敗しては、クリスティーナを呼びつける男子生徒。どうやら美人のクリスティーナとお近づきになりたい欲望で、そういう態度に出ているようだ。  呆れた態度にクリスティーナは、思わず「はぁ……」とため息を吐く。クリスティーナの特別授業は、徐々に不穏な空気に包まれていく。  一方そのころ下級クラスは、全員で校庭の端に集まっていた。なにやらコソコソとしている下級クラスのところへ、暇を持て余したノイマン学長がやって来る。 「おや? 下級クラスはこんなところで、一体なにをしているのですかな?」  ノイマン学長に気づいたシャルロットは、校庭の中心を指差しながら状況を説明する。 「お姉様はあんな調子で、上級クラスと一般クラスに手いっぱいですわ。ですからワタクシ達は、ヘンリーから魔法を教えてもらっていますのよ」 「ほう? ヘンリーに魔法を?」  首を傾げるノイマン学長。  その時──。 「うおぉぉーっ!」  集まっていた下級クラスの中心から、シャルルの大きな叫び声があがる。  片手に杖を持ったシャルルは、声をあげて全身を震わせている。よく見ると杖の先端からは、小さな火種が吹きあがっている。 「俺の魔法だ……生まれてはじめての魔法だ!」 「これでシャルルは目標達成ですね」 「ありがとうヘンリー! 本当にありがとう!!」  どうやら人生初の魔法を成功させたシャルルは、涙を流しながらヘンリーに頭を下げている。あまりにも勢いよく頭を下げすぎて、せっかくの魔法をかき消してしまいそうだ。   「自分は魔法の才能に恵まれず、今まで一度も魔法を使えたことはなかったのだ……下級クラスに入った理由も、魔法の試験で最低点を取ってしまったからなんだ……」 「シャルルさんの気持ちは分かります……私も魔法は苦手ですから……」 「自分は一生魔法を使えないと思っていた……これは奇跡だ……!」  涙を流すシャルルの背中を、ナターシャは優しくさすってあげる。そんな優しいナターシャへと、ヘンリーは一本の杖を差し出す。 「次はナターシャさんの番です、この杖を使ってくださいね」 「わっ、私の番ですか!?」 「これからナターシャさんの魔法の階梯をあげます、準備はいいですか?」 「あの……分かりました! お願いします、ヘンリーさん!!」  ナターシャはやる気十分でギュッと杖を握りしめる。次はナターシャの番……と思われたその時、ノイマン学長から待ったをかけられる。 「少し待ってほしいのですな。魔法を使えなかった者に魔法を使わせた、その方法をワシにも教えてほしいのですな」 「ノイマン学長から教えを請われるだなんて、恐れ多いですね……」  そう言いながらヘンリーは、小脇に抱えていた一冊の本をノイマン学長に手渡す。 「この本のおかげですね」 「この本は……“魔法学大全”と書いてありますな。著者は……」  表紙を指でなぞっていたノイマン学長は、著者名を見て目を丸くする。 「これは! ウルリカ様の書かれた本ですかな!?」  そこには紛れもなく、ウルリカ様の名前が刻まれていたのだった。
/310ページ

最初のコメントを投稿しよう!

221人が本棚に入れています
本棚に追加