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いつのまにか空はまるで神鳴の音に驚いたかのように、泣くのをすっかりやめていました。 天空でほのかに光り輝く月だけがわたしたちを照らす唯一の灯りでした。 「帰りましょうか」 喉の奥に張り付いてしまった声帯を必死に振るわせ、やっとの思いで音を発します。 リュートはその細い首を縦に振る代わりに、静かに、一言だけ、たった一言だけ言いました。 「先生、僕を魔王討伐に行かせてください」 「――何を言い出すのですか?」 ……きっとどこかで聞いていたのですね。あるいは大人たちの態度から何かを察したのかもしれません。その小さな耳で、その小さな眼で。  「僕を魔王討伐に行かせてください。僕が旅に出て強くなればいいんです。たくさんの人を護りたい、もうカノンのような人を出したくない……だから――お願いします……」 彼の声は非常に細かった。けれど、カノンを救えなかったくやしさが、固く(つよ)い芯となったのでしょうか。決して消え入りそうにはありませんでした。 瞳には勇気のひかりが夏至の日の太陽のように爛々とともっていました。 わかっています。彼に酷く辛い思いをさせる事。普通に暮らしていれば味わうことのなかった哀しみを与えてしまうこと。 けれど、わたしたちはたった一人の少年のまだ発達していないその肩に重い重い使命を背負わせる道を選ぶしかなかったのです。 ……いいえ、選んでしまったのです。
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