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「彼がここを出発した日は今でも昨日のことのように思い出せますよ。 わたしたちの予想とはちがって、彼は色の良い唇をぎゅっと真一文字に結び、覚悟を決めたかのように一歩、踏み出しました。 最後まで変わったでしたね」   ――おかしい。 先程までの歓声の代わりに気持ちの良さそうな寝息が聞こえます。 あらあら、院長先生のお話の途中で眠ってしまうなんて失礼な子供たち! 愛おしい寝顔が見たいものだわ。 リュートが命懸けで守ってくれたこの世界ではもう夜に怯える必要もないのです。 ……子供はいつの時代もよく眠るものですがね。 秋晴れの空のような、雲の晴れた世界しか知らない子供達はわたしの話をおとぎ話か何かだと思っているようでした。 そう、遠い遠い昔の話ですから。
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