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しかし現実は非常なもので、リュートは蕾が花開くかのように、堅く結んだその口を開いて言いました。 「鳥が……カノンを……」 「鳥?」 「追いかけて森に……カノンは……たべられ……」 文章にならないことばが小さな小さな唇からつぎつぎと漏れ出しました。要領を得ないことばの山から、未成熟なこころに傷を残した恐怖と悔恨がひしひしと伝わりました。 ちっぽけな少年の心と共鳴するかのように空がざあっと落ちてきました。 魔物は本当にひっそりとわたしたちのそばにいたのです。 カノンはもう、助からない。 わたしは彼女を無慈悲な世界からどうにか救い出してやることができなかった。 何年も経った今でも、時々夢に見るのです。 ずんずん歩いて先に行ってしまうカノンの後ろ姿をわたしは必死に追いかけます。 けれどいつも手を伸ばせば届きそうなところで怪物がやってきて彼女を攫っていってしまうのです。 陶器のように滑らかで、汚れのない白い肌に無慈悲な鉤爪がずぶりと突き立てられ、赤黒い跡だけをわたしの前に遺して消え去ってしまうのです。 リュートも同じ夢をみるのかもしれません。
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