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カミサマはいらっしゃるんですよ――と、わたしが言うと子供たちは特有の甲高い声でカタカタと笑いました。 いつもわたしたちを見守ってくださっているのです、とさらにつづけると手がつけられないほどの大合唱となってそこらじゅうに笑い声が響き渡りました。 「じゃあさ、先生。どうしてカミサマは魔王を倒してくださらないんですか?」 わたしの受け持っている子供たちの中では一際背の大きな子が質問しました。 うーん、そうですよね。とは仮にも神に仕える身として口が裂けても言えません。 だからわたしはカミサマがいらっしゃるから魔王が存在できているのです。 カミサマは万物にそのどんな海よりも深いご慈悲をお注ぎになられているのです、といったわかるんだかわからないんだか、言いえているようでまったく言いえていない、ことばを無闇にこねくり回したような無味無臭の主張を繰り返すしかなかったのです。 「それにカミサマがいるならリュートみたいなヤツ創るわけないじゃん」 な、とでも言いたげに一番のお調子ものがみんなの顔を見渡しましたが、みんな言ってはいけないことを言ってしまったと幼いながらなんとなく察したのでしょうか。 口を固く結んで誰も彼とは目を合わせませんでした。 宙ぶらりんになってしまったお調子ものはまだ自業自得だからよいとして、リュートのことが気にかかります。 リュートもまた、わたしの受けもつ生徒の一人でした。 ただ、どうにも独特な…と形容したらよろしいのでしょうか?とにかく普通ではない子供だったのです。 運動が得意なわけでもなく、ずば抜けて賢いわけでもない。容姿も目を見張るほど素晴らしいかと問われれば、そうとは答えられませんでした。どちらかといえば全て平均以下…というのは言葉が過ぎました。教育者として失格ですね。 わたしの力ではうまく言葉にできない……不思議なオーラを纏っている子でした。
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