時空濃縮中毒

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 だが、一度この魅力を体験してしまえば、1分計ではものたりないのだ。  考えてもみたまえ、せっかく執筆が乗っているというときに、通常の時間軸に引き戻されてしまうのだぞ。  ここでまばたきを一回する時間が、あちらでは2日に相当するのだ。そのあいだに、どれほどの言葉が生まれると思っている。  世間では速筆の作家だと言われている私だが、なんのことはない。私はあちらで何冊分もの文章をつむいでいるにすぎない。  しかし、咎められるいわれはない。  どんな手段を用いようとも、これらの物語を書いているのは私なのだ。  ゴーストライターがいるのだと揶揄する者もいるが、とんでもない。  私は、私の時間を費やして、私の中から物語を生み出している。  ただ、時間の使い方が違うだけなのだ。  どうだ? 興味が湧いてきたか?  なに、副作用?  さてな。とくべつ風邪を引きやすくなったわけでもないし、腰痛なのは昔からだ。普通に生きて暮らしていれば起きる程度の体調不良しか、起こしていないさ。  強いていえば、子どもは1分計以外を使うものではない、というところか。  だってそうだろう。大人の1年と、子どもの1年は同じであって同じではない。例えていうなら、5分後に進級するようなものだ。  子どもの1年は、大人にとっての何年分にも相当する情報吸収をする時間であるし、身体的な成長も伴うものだ。まばたきするごとに四肢が伸びていく、早回しの映像のような成長をするさまは、悪影響だろうよ。  大人になると、1年で姿形が激変するということもないから、周囲の人間も私が時間を濃縮して過ごしていることに気づかない。わずか5分の間に、私が300日を過ごしていたなど、想像もしていないだろう。
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