時空濃縮中毒

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 さて、そんな5分計が欲しくないか?  別に金を取ろうだなんて思っちゃいない。私はこれでも、それなりに稼いでいるんだ。ただ、もう必要がないと判断したから、君にゆずってやろうと思ったまでだ。  もういいのかって?  とんでもない。こんなものじゃ足りないと思ったのさ。  この砂時計を使いながら、この砂が減っていくのを見ながら、私はいつも思っていた。  あともう少しこの時間をくれ。  5分。  あと5分。  私は切実に望んでいた。  だがこれは、連続しては使えないのだ。すぐに裏返すことはできない。おそらく、身体に負担がかかるのだろう。日に1回が限度だ。  待てないのだよ。  だから私は手に入れた。  10分計だ。  10分。すなわち、600秒であり、約1年半。  すでに二度使ってみたが、素晴らしい。  書き溜めがどんどん増えていくのに、現実にはまだ1時間すら経過していないだなんて、痛快じゃないか!  ゴホッ、ゲホッ。  ああ、失礼。すこし喉が詰まってしまった。  そうだな、これが副作用といえなくもないのかな。  なあ、君。私がいくつに見えるかね?  遠慮はしなくていい、素直に言ってくれたまえ。  60代半ば?  なかなかいいところをつくねえ。  正解は、30歳だよ。正確には、30歳になったばかり、かな。  大学生の時に時空計を手に入れてね。当時、小説家になりたかった僕は、これを使ってひたすら書いたよ。それを小説投稿サイトに出した。毎日更新を続けて、完結したら即座に次の作品をあげて、こっちも当然毎日更新さ。  それとはべつに出版社の公募にもあれこれ送った。  あれからそろそろ10年。  でも、僕の身体はその何倍もの時間を生きているからね、当然ながら身体はそれだけの時間を過ごしている。何回使ったのかなんて覚えちゃいないが、これだけ顔が老いているんだ。僕の身体は、30年ぐらいは余計に動いているんだろうね。  口調もなるべくそれっぽくするようにしているから、誰も僕の実年齢が30歳だなんて思っていないだろう。  さあ、手に取れ。  そして、砂時計を逆さにするがいい。  濃縮された5分間を楽しみたまえ。  いつか君も望む日が来るだろう。  あと5分、と。
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