ヘルメット星

1/1
前へ
/1ページ
次へ
私が次に訪れた星もとても変わった星だった。住人の皆がフルフェイスのヘルメットを着用していたからだ。降り立った宇宙空港の職員も免税店の店員も、モニターに映る俳優やポスターの人物に至るまで全てがだ。 私はすぐに興味が湧き、独自に調査する事にした。そして空港に居た一組のカップルが取材に応じてくれる事になった。早速空港内の喫茶店に入って話を聞く事にしたのだが、もちろん喫茶店内の店員も他の客もヘルメットをかぶっている。逆にヘルメットをかぶっていない自分が何故が恥ずかしくなってきた。私はそんな感情を振り払うように早速単刀直入に二人にインタビューを始めた。 「何故この星の人々は皆、ヘルメットをかぶっているのですか?」 「この星では全ての人が産まれてすぐにこのヘルメットを装着します。そして産まれてから死ぬまでこのヘルメットをかぶったままなんですよ。それにこの星の法律でヘルメットを外す事は禁止されていていますし、そもそも構造上外せないようになっています。」 「この星の方のヘルメットにはそんな理由があったのですね。でも、四六時中そのヘルメットをかぶっていては色々と不便な事はないですか?」 「全くないですよ。そもそもヘルメットがない事がないので、きっとあなた達と同じ感覚なんだと思います。それにこのヘルメットは成長に合わせて自動で大きさや形が変化してくれるし、非常に軽くて丈夫な素材で出来ていて、もはや身体の一部と言ったところです。 このヘルメットをかぶっていれば頭や顔を怪我しないし、マスクの効果も付いていてホコリや花粉、細菌やウイルスまでもを通さないし、水中や有毒ガスにも対応している。このヘルメットは常に我々の健康を管理してくれていて、もはやヘルメットはこの星の住人にとっては生命維持装置とか専属の主治医みたいなものですね。」 「まさに一心同体で、身体の一部といったところですか。」私は素晴らしいシステムだと思ったが、一つ疑問に思った事を聞いてみた。 「そのヘルメットは人の安全が産まれたその時から守られる素晴らしいシステムですね…。でも、お互いの顔や表情が分からないのは辛く、悲しくないですか?」二人は顔を見合わせた。そして彼が口を開いた。 「ボクらは物心ついた時からこの姿だからそんな事は考えた事が無かったよ。だからその質問には答えようがないな。だけど今、何故か涙が溢れ出てきて止まらない。でもこのヘルメットのせいでその涙を拭う事も、彼女の涙を拭ってあげる事も出来やしない…。ハハッ、どうやらこのヘルメットには涙を拭ってくれる機能までは付いていないようだ…。」
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加