手を握る。

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「ふふ。物分りがいいのも結構だけどね。僕らは魂があの世に行く前に一つだけチャンスを与えているんだ。それをやるかやらないかは自由だけどね」  空には満月。それを背に天使はにこりと笑う。 「生き返らせてはくれないだろう?」 「もちろん生き返らせはしないよ。あなたが死ぬ五分前に時間を戻すだけ。死ぬのは決まっているし、それができるのも一回。さぁあなたはどうする?」  無邪気に楽しそうに天使は告げる。俺は今出てきた窓に視線を移す。五分戻っただけでできることなどないだろう。それでも……。  涙一つ見せない愛美が心残りだ。愛美はこれからどう生きていくのだろう?できるならば俺以外に愛する人を見つけて穏やかに生きてほしい。それだけでも伝えたい。  天使は俺の目の前で宙返りをする。 「ゆっくり考えなよ。たった一回のチャンスだからね」  俺の体は事故で動かすことも難しい。話すことさえ。 「動いたり話したりはできるのか?」 「お兄さんの体だと難しいかな?でもね死ぬ気になれば少しは動けるだろうね。無茶苦茶痛いだろうけど」 「そういう人はいたのか?」 「いたよ。少なくはないけど、それで満足できたどうかはまた別だから」  ならば。 「ならばやるよ。俺を死ぬ五分前に戻してくれ」 「ふふ。頑張って、お兄さん」
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