時よ、止まれ

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「私にとっては不要だが、君ならきっと欲しがると思ってね」  そう言いながら平岡(ひらおか)は黒のショルダーバッグから(おもむろ)に白い箱を取り出し、慎重に開封した。 「君にはこれが何なのか、わからないだろうね」  平岡と幼なじみで、同じ大学に通う森田(もりた)は、ただの砂時計だろと――実につまらなさそうに返事した。 「私もね、最初はただの砂時計だと思ったよ。しかしよく見てごらんよ、不思議な砂だろう」  その砂は透明であった。透明であるにもかかわらず、そこにその砂があるということはハッキリと認識できる。『見える』と『感じる』のちょうど中間に位置するような、そんな不思議な砂である。 「この砂時計はある老女から譲り受けたのだがね、なんとこの砂時計は、たったの一度だけ時間を止めることができるのだよ」  平岡は少し興奮気味に、しかしゆっくりと話を続ける。 「この砂時計をひっくり返すと、この砂は重力によって下へ落ちるだろう。全ての砂が落ちきるまでの五分間、砂時計(これ)をひっくり返した者以外の時間が止まるらしい。老女曰く、五分後――つまり全ての砂が落ちた時、この砂は消えてしまうらしいのだ。しかし、まだ誰も試したことがないらしく、実際どうなってしまうのかは謎だがね」  どうだ、君はこういうのが好きだろう――と、砂時計を残して、平岡は早々に帰っていった。
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