寝ずの番

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「ねぇ、キスがしたい」  忍はそう言うと、翔太の首に手を回した。そうしてゆっくりと顔を近づけていく。それに応えるように、翔太もすこし体を屈ませる。二人は目を閉じることなく、真っ直ぐ見つめ合ったまま唇を触れ合わせた。その冷たくも柔らかい感触に、翔太はもっと欲しいと渇望する。しかしそれを見越したように、忍はすぐに唇を離してしまった。そうして翔太を見上げた目は、意地悪く笑っている。 「もっとしたい?」 「あぁ、したい」  翔太はもはや、人間というよりは欲望に忠実な獣に近い存在となっていた。言葉少なの強請ると、忍は満足そうに口の端を上げた。そうして弄ぶように翔太の背中を引っ掻く。するとゾクゾクッ、としたものが体中に走る。それは幽霊に触れられたからか、それとも自分でもわからないうちに興奮しているのか。 「あんまり酷くしないで」  そんなこと微塵も思っていない、むしろ煽るような言い方で忍が囁く。それを合図に、翔太は忍の口を塞ぎにかかった。それは先ほどよりもっと深く、貪るような熱いキスだった。ひんやりとした口内を嘗め回し、忍の薄い舌を引っ張り出しては吸い付く。 「ん……、はぁ、んむっ、ちゅ……」  さすが幽霊。息をしないだけあって、先に音を上げたのは翔太の方だった。だらしなく舌を出しながら、荒く息を吸い込んでいる。しかしその手はしっかりと忍を抱いており、逃がすまいとしていた。それに抗う様子も見せず、忍は大人しく腕に拘束されている。 「気持ちよかった?」  そんな忍の問いかけに、翔太は頷くことしかできない。するとますます、忍は満足そうに笑う。その目は猫のように細められ、まるで翔太の方が食われてしまうのではないかという獰猛さがあった。 「僕も、気持ちよかった」  他に誰もいないのに、忍はわざわざ耳元まで口をよせてそう告げる。それだけで翔太の心臓はドキドキと早鐘を打つのだった。
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