最終章「私のお隣さん」

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家の近くにあるのとは別の、この辺りでは一番大きな神社。小さな方の神社は昨日家族で参拝したから、今日はこっちに来ようって話になった。 「わ、凄い人」 早めにきたつもりなのに、鳥居に入る前の道から人でごった返してる。屋台もたくさん出てて、お祭りみたいな雰囲気に胸がワクワクと高鳴る。 「どっか行くなよ」 旭君は、握る手の力をキュッと強めた。 「うん」 「ニヤニヤすんな」 「嬉しいから」 「ったく」 旭君の意地悪発言は、今年も健在らしい。でも表情が柔らかいから、ちっとも怖くない。 屋台にキョロキョロする私を引っ張って、旭君は手水舎に行きそこで二人で手と口を清めた。 それから、長い行列ができている参拝の列に並ぶ。 「寒いけど、熱気が凄いね」 「正月から皆暇だな」 「それって私達も?」 「そりゃそうだろ」 「あ、そういえば昨日のテレビでね…」 旭君といると心が躍る。前までは偶然を装って待ち伏せしたり、小中高とクラスが違う時はさり気なく教室の前を通ってチラ見したり、やたらとお母さんにお隣に用事ないか聞いたりしてて。 お隣さんといえど気軽に遊べたのは小学校まで。中学に入って旭君も素っ気なくなったし、私も気軽に誘えなくなった。 すぐ側にいるのに、告白もできない。他の女子から「ただの幼馴染み」って言われても否定できない。私旭君は、近いようでとても遠かった。 だけど今は違う。用がなくても電話していいし、次に会う約束もできる。旭君のあったかくて大きな手に触れられる。 幼馴染みから、彼女に。この違いは私にとって、世界がひっくり返った位の劇的な変化だ。 「フフッ」 「何急に笑ってんだ、こえーよ」 「だって嬉しいんだもん」 「何が」 「旭君が隣にいること」 「昔からいるじゃん」 「全然違うよ、幼馴染みと彼氏じゃ!」 勢いよく抗議する私を呆れ顔で見た後、ちょっと意地悪く口角を上げた。 「まぁ確かにそうだな。これからは遠慮なく触れるわけだし?」 「お手柔らかにお願いします」 「そうはいくかよ。お前、俺が今までずっと何考えて生きてきたか分かる?」 「そんなの分かんないよ」 「どうやって自然にお前に触るかってこと」 「は!?」 予想外の答えに思わず大きな声が出る。参拝の列に並んでることを思い出して慌てて手で口を押さえた。
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