第一章「大好きなお隣さん」

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私にはない勇気が、他の女の子達にはある。好きだって気持ちを真っ直ぐに伝えられるその行動が、私にはとても眩しく思える。 羨ましくて、尊敬もして、同時に凄く怖い。 旭君がいつか特別な女の子を作ってしまう、その日が来ることが。 「私、ダメダメなんだよ…ウジウジしてて怖がってばっかりで。だから、勇気を出して気持ちを伝えられる人は凄いなって」 「あーごめんねひまり。私そんなつもりで言ったんじゃないんだよ?」 「分かってるよ風夏ちゃん、謝らないで?」 「要するに、そもそも最初から距離が近いんだよね。ひまと石原は」 「え、それってスタートが皆よりゴールに近くていいことなんじゃないの?」 「そうでもないんじゃない?逆に壊れるのが怖くなる気持ち、私は分かるな」 「そっかぁ。私、好きって思ったらすぐ言っちゃうタイプだからなぁ」 「凄い!風夏ちゃんかっこいい!」 「へへーん、でしょ?でもさ、大体オッケーはしてくれるんだけど長く続かないんだよね。結構ノリで告白しちゃってるからさ」 「難しいんだね、恋愛って」 「私はまだいいかな。高校入って三ヶ月しか経ってないし」 「そうだよねー、いい人探しはこれからだよねー!ひまりもさ、実は石原君以外に運命の人が居たりして!」 「うーん、どうかなぁ。旭君以外の男の子をそういう風に見たことがないから」 「ひまりは知らないだろうけどさー、結構狙われてるからね?気を付けなさいよ?」 「え?え?」 「あーもうほらほら、教室着いたよ」 「菫もだからね?狙われてるの」 「はいはい、分かったから」 私達が教室に入ってすぐ、予鈴のチャイムが鳴る。ゆっくり話しながら歩いてたから、着くまでに結構時間がかかってしまったみたいだ。 「起立、礼。着席」 「はい、今日は二時間目にーー」 先生の話を耳に入れながら、私は窓の外に目を移した。窓際の後ろから二番目、とっても好きな位置。 ー石原君、この前告白されたらしいよ ー焦ったりしないの?取られたらどうしよう、とかさ 頭の中でさっきの風夏ちゃんの言葉がリフレインする。 背が高くて、手足が長くて、顔だって少しだけ目付きが悪いけど鼻筋が綺麗で整ってて。きっと旭君を好きじゃなかったとしても、かっこいいなって思ってただろう。 小学校高学年位から目に見えて女の子に人気が出始めた旭君は、多分今まで誰の告白もオーケーしたことがない。 女の子に興味がなさそうって感じで、中学の時旭君の家までバレンタインのチョコレートを渡しに来た女の子が居たけど、旭君は受け取ってなかった。 私はその時丁度ピアノ教室に行こうとしてて、偶然見てしまって。旭君がどうするのか気になって、最後まで覗き見しちゃったんだ。 ーこういうの、好きじゃないから 冷たい声色の旭君の声を聞いて、自分が言われたわけじゃないのに泣きそうになった。 私のチョコレートは、お隣さんだから貰ってくれるだけ。受け取らねーと母さんがうるせーからって言ってたし。 その後もなにかと女の子からちょっかいをかけられてた旭君は、いつも眉間に皺を寄せてて。 きっと私が幼馴染みじゃなかったら、旭君の隣は歩けてない。 そう思ったら、好きって言うのが怖くなって。 一生旭君のでいたいわけじゃないけど、今の位置から一歩踏み出すのがどうしても怖かった。
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