第十三章「一人じゃないから」

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笑顔を作りたいのに、どうしても声が震える。旭君は私と目線を合わせる為に、ベッドの側で膝立ちになった。 「旭君の素直じゃないところも、恥ずかしがり屋なところも、私を守ってくれようとするところも、全部全部大好きだよ」 「ひまり」 「旭君、いつもありがとう」 そう口にした瞬間、旭君が私を抱き締めた。その手は壊れ物に触れるみたいに、優しくて。 凄く嬉しいのに、目尻から一筋涙が零れた。 「ひまり」 「うん」 「ひまり」 「旭君」 「大好き」 「私も」 「こうしたかった、ずっと」 旭君の声色が優しくて、でも震えてるようにも聞こえて。私も彼をギュッと抱き締め返す。 「バカ、無理すんな」 「やだ、私もこうしたいの」 「意地っ張り」 「どっちが」 二人で顔を見合わせて、笑い合う。ずっと一緒に居たのに、また今日旭君の初めての部分に触れた気がする。 「最近旭君がすぐ逃げちゃうから、傷付いてたんだからね?」 「それは、アイツらとのことちゃんとするまではって…」 「そんなの、私には意味分かんないもん」 「悪かったって」 「じゃあ、これからいっぱい触ってくれる?」 「え」 「あ…」 勢いでポロッと出た言葉は、回収したくてももう遅い。真っ赤になってるだろう顔を隠しながら、笑って誤魔化す。 「じ、冗談冗談!アハハ」 「…」 「旭君?」 「…止めろ、バカ」 旭君は怒ったように眉間にシワを寄せてるけど、この顔は間違いなく恥ずかしい時にする顔だ。 私が恥ずかしがった時はもれなく旭君もそうだから、余計に恥ずかしさが増しちゃうんだよなぁ。 「…いいなら」 そっぽ向いたまま、旭君がボソボソと呟く。 「ひまりがいいなら、そうする」 「っ」 「やなら、しない」 「い、嫌ってわけじゃないけど」 「じゃあいい?」 「う、うん…」 ギュッと目を瞑ると、旭君が動く気配がして。思わず体をガチッと固まらせると、チュッという軽い音と共に旭君が私の右の頬っぺたにキスをした。 金魚みたいに口をパクパクすることしかできない私に、旭君は照れた表情のまま嬉しそうに口元をゆるめて。 そんな彼の表情に、私の体温は更に上昇したのでした。
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