第十四章「きっと伝わる」

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「大倉さん」 名前を呼ばれて、パッと顔を上げる。目の前の二人の表情は、私が予想してたものとは違っていた。 「ごめんね」 ポソリと、一人の子が呟く。 「大倉さん、本気で石原君のこと好きなんだね」 「あ、あの」 「ウチらには、到底真似できないよ。あんな風に飛び出したり、嫌がらせしてきたヤツにこうやって頭下げたりさ」 「石原君と同じクラスになって、ただ二人でキャーキャー騒いでたんだよね。アイドル見るみたいな感じで。でも大倉さんと付き合ってるって聞いて、正直似合わないって思ってた」 旭君は近寄り難い感じだからあからさまに囲まれたりはしなかったけど、昔から女子に遠巻きにずっと人気があった。 彼女達が私に対してそう思うのは、不思議なことじゃない。 「大倉さん、凄いよ」 「え?」 「大倉さん見てたら、石原君が好きになった理由なんとなく分かった」 今度は二人が、私に向かって頭を下げた。 「今まで、ごめんなさい」 「う、うん!大丈夫だから、頭上げて?」 アタフタする私に、二人とも柔らかい表情を見せる。 「大倉さんが言ったこと、協力するよ。元々ウチらが流したわけだし、協力って言い方もおかしいけど」 「ホント!?ありがとう!」 「自分のことはいいから彼氏のことをって、大倉さん彼女の鏡だね」 「いい子過ぎて」 「ち、違うよ私いい子じゃない。二人のこと、凄く焦ったよ。石原君には、二人みたいな子の方が合ってるんじゃないかって。そう思ったら悔しくて、怖かった」 「…」 「私だっていつも嫉妬ばっかりしてて、余裕なんか全然ないよ」 「大丈夫だよ、大倉さんなら」 「うん、私もそう思う」 最初に会った時は、二人がこんな風に笑ってくれる日が来るなんて思わなかった。 嬉しくて、思わず泣きそうになるのをグッと我慢して私も同じように笑顔を返した。 ーーそれから日が経って、あの噂もすっかり鳴りを潜めた。あの二人は本当に噂を訂正して回ってくれて、そのおかげもあってもう「可哀想」とは言われなくなった。 単に時間が経ったからっていうのもあるだろうけど、協力してくれたあの二人には感謝してる。 「大倉さん」 部活のことで用があって職員室に行く途中で、一ノ宮君に声をかけられる。 「何か久しぶりに話すね」 「そうだね!一ノ宮君、背伸びた?」 私の前に立つ彼を、前よりも見上げてる気がしてそう口にした。 「まぁ成長期だから」 「アハハ、いいことだね」 二人で笑い合った後、一ノ宮君が真面目な顔で私を見つめる。 「大倉さん、噂のことだけど…」 「あ、うん。でもあれは」 「分かってる、嘘だってこと。前橋もそう言ってたし」 「前橋さんが…」 私の分からないところでも、私は色んな人に助けられてる。 「ていうかその前に、石原君が大倉さんのこと遊なんかじゃないって、見てたらすぐ分かるよ」 「えっ」 「大倉さんと話してる時石原君が居たら、いっつも物凄い顔で睨まれてたし」 「そうなの?」 「しかも石原君、ウチのクラスの前通る時絶対大倉さん居るかチラッと確認してるよ。俺廊下側の席だからそういう石原君何回も見てるし」 「アハハ、ホントかなぁ」 「俺が二人の間に入る隙は最初からなかったんだなぁってさ」 寂しそうに笑う一ノ宮君に、私は言葉に詰まった。 「あ、ごめんね変なこと言って」 「ううん」 一ノ宮君は、凄くいい人だ。旭君に感じる気持ちとは違うけど、私の中での一ノ宮君はもう大切な友達だ。それをハッキリ言葉にして伝えることは、流石にできないけど。 「一ノ宮君、ありがとう」 色んな気持ちを込めてそう口にすると、一瞬キュッと唇を結んだ後一ノ宮君もパッと笑ってくれた。 「こちらこそありがとう!でもあれ?俺ら何でお礼言い合ってんだ?」 「アハハ、確かに」 「ハハッ」 また笑い合って、一ノ宮君は軽く片手を上げる。 「引き止めてごめんね!じゃあ」 「うん、じゃあ」 駆けていく一ノ宮君の背中を見送った後、私もクルッと向きを変えて一歩前へ進んだ。
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