彼女に伝える5分前、

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僕は朝からお腹が痛い。 何より気持ちが落ち着かない。 夜も中々寝付けなくて寝不足でもある。 でも、僕がどんな状況でも朝はやってくる。今日は稀に見る晴天。僕を叩き起こした太陽は、僕の背中を押してくれているのか、それともニヤニヤと笑っているだけなのか。 ろくに朝飯も喉を通らず、母親の問い掛けも空気のように存在を感じることが出来ず、いつもの時間通りに家を出て、今に至る。 ー あと5分。 僕は今、駅の改札前にいる。ICカードを翳そうと手に持つが、中々一歩が踏み出せない。 後ろにいたオジサンが迷惑そうに僕の肩に身体をぶつけながら通りすぎていった。 その後も4、5人が僕を追い越していった。通る人たちは、不思議そうな顔で僕を見ていく。 ー こんな自分じゃ駄目だ。 僕は動作は小さく深呼吸して、改札に足を踏み入れた。 ー あと4分。 僕は改札を通ると、いつもより早足でホームを目指した。いつもより出遅れているため、いつもの車両のいつもの扉、そして、いつもの立ち位置を確保するためだ。 さっき改札で追い越された人たちも抜きながらホームへの階段を駆け足で下りて、いつもの扉の位置を目指した。 元々は、降車駅の出口に近いという理由でこの扉を選んだのだが、今思えば運命だったと…いや、それは都合が良すぎるかと、自分に言い聞かせながら、何とかいつもの並ぶ列に混ざることが出来た。
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