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「冬弥!!」
「友亜・・・。 どうしてこんなところへ来たんだ?」
「冬弥の姿がなかったから、捜しに来たんだよ! っていうか、どうしたんだよその姿!」
珍しく怒っているせいなのか、少し口調が荒い。
「・・・えっと、どこか変かな?」
「変だよ、変過ぎる! どうして透けているの!?」
「それは気のせいじゃない?」
「気のせいなんかじゃない! 何? 一体どういうこと!?」
もう誤魔化すことはできないと思った冬弥は、全てを話すことにした。
「・・・友亜。 実は俺、死んでいるんだ」
「ッ、何それ。 冬弥は今、僕の目の前にいるじゃん! 死んでなんかいない!」
「でも、透けているのが何よりも証拠だよ」
「嘘だ、そんなの嘘だ・・・!」
他に能力のことも全て話した。 自分の魂と引き換えに、友亜に能力を与えたこと。 自分の姿は友亜にだけ見えていて、願いが500個叶ったら、能力と共に自分は消えるということを。
ただ今日、500個になるということだけは言えなかった。
「信じない、僕は信じないぞ! 急にそんなことを言われて、誰が信じるか!」
「友亜・・・」
「もう、意味が、分からない・・・」
「俺は友亜に人気者になってほしかったんだ。 その望みは叶った、もう俺には悔いがない。 俺がいなくても、友亜は平気になった」
「全然平気じゃないよ! 僕は冬弥がいないと駄目なんだ! 冬弥が隣にいない生活なんて、考えられない!」
喚くように言い、仕舞には泣き出してしまう。
―――・・・友亜を泣かせてしまった。
―――俺の願いは、叶わなかったっていうことだな。
「あ、あ、そうだ・・・! 記事! 僕はまだ、今日の分の記事を書いていないんだ! 今すぐに、冬弥は死んでいないっていう記事を書く!」
机に置いてあった紙に、友亜は必死に筆を走らせる。 その姿に冬弥は少し期待してしまった。 物欲を叶えることはできないという話で、友亜の願いはそれに近い。
というより、人の生き死にに関与できるなら、そもそもこのような状態になっていないはずだ。
―――それでも、もしかしたら・・・。
人は100%無理だと思っていても、自分の望む未来はあるのではないかと信じてしまうことがある。 冬弥も同じだった。 だが無情にも、叶う願いがあと一つだと分かる。
そして、友亜が書いているその記事は元々有効ですらないということも。 記事を書き終えた友亜は、冬弥を祈るように見た。 だが当然、身体は透けたままだ。
「ッ、どうして・・・! どうして僕の願いが叶わないんだよ! 叶え、叶えよ!! 僕は、自分の願いは一切叶えず、他の人の願いを今まで叶えてきたんだぞ!
だから・・・最後くらい、僕の願いを叶えてよ・・・ッ!」
記事には『スクープ! 冬弥は死んでいなかった! これからもずっと、冬弥と友亜は親友のまま!』と殴り書きされていた。 泣き崩れる彼を見て、胸が痛む。
「友亜・・・」
―――俺の願いは叶わなかった。
―――そして、友亜の願いも叶わなかった。
まるで鐘の音が鳴るような音が頭に響き、最後の願いが叶ったと分かった。 それはつまり、冬弥の人生の終わりの音だ。
その直後、廊下から誰かが走ってくる足音が聞こえ、それは美術準備室の前で止まった。 そこに立っていたのは千晴だ。 顔を赤らめ、緊張しているのが伝わってくる。
「友くん! 私、友くんのことが好きです!」
「え・・・。 千晴、ちゃ・・・」
500個目に叶った願いは、千晴のものだった。 いきなりな気もするが、それは記事に書いた願いのためなのだろう。 友亜は突然の告白に驚くも、思い出すようにして冬弥のいる方へ振り返る。
だがそこには、誰の姿もなかった。
「え、え、嘘でしょ・・・!? 冬弥? 冬弥!」
友亜は千晴そっちのけで、冬弥がいた場所を探す。 引き出しの中に、いるはずなんてないのに。
「え・・・。 冬弥くんが、どうしたの?」
千晴は当然、冬弥が入学式の日に死んでしまったことを知っている。 知ってはいるが、それは悲しい記憶のため出来たら触れたくないものだった。
「冬弥、どこへ行ったんだよ! 出てきてよ、今すぐに! 僕を置いていかないでよ! お願い、だから・・・ッ。 嘘、嘘、だろ・・・」
何度見渡しても、教室には友亜と千晴の姿しかない。
「ぼ、僕の、せいだ・・・。 僕が、記事なんて書いたから。 記事なんて書かなければ、冬弥は消えずに済んだのに!」
500個の願いが叶ったら、冬弥は消える。 それを思い出し、頭を掻きむしった。 そのまま友亜は、千晴を置いてこの教室から飛び出した。
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