願いを叶える記事と、友の願い

10/12
前へ
/12ページ
次へ
「冬弥!!」 「友亜・・・。 どうしてこんなところへ来たんだ?」 「冬弥の姿がなかったから、捜しに来たんだよ! っていうか、どうしたんだよその姿!」 珍しく怒っているせいなのか、少し口調が荒い。 「・・・えっと、どこか変かな?」 「変だよ、変過ぎる! どうして透けているの!?」 「それは気のせいじゃない?」 「気のせいなんかじゃない! 何? 一体どういうこと!?」 もう誤魔化すことはできないと思った冬弥は、全てを話すことにした。 「・・・友亜。 実は俺、死んでいるんだ」 「ッ、何それ。 冬弥は今、僕の目の前にいるじゃん! 死んでなんかいない!」 「でも、透けているのが何よりも証拠だよ」 「嘘だ、そんなの嘘だ・・・!」 他に能力のことも全て話した。 自分の魂と引き換えに、友亜に能力を与えたこと。 自分の姿は友亜にだけ見えていて、願いが500個叶ったら、能力と共に自分は消えるということを。  ただ今日、500個になるということだけは言えなかった。 「信じない、僕は信じないぞ! 急にそんなことを言われて、誰が信じるか!」 「友亜・・・」 「もう、意味が、分からない・・・」 「俺は友亜に人気者になってほしかったんだ。 その望みは叶った、もう俺には悔いがない。 俺がいなくても、友亜は平気になった」 「全然平気じゃないよ! 僕は冬弥がいないと駄目なんだ! 冬弥が隣にいない生活なんて、考えられない!」 喚くように言い、仕舞には泣き出してしまう。 ―――・・・友亜を泣かせてしまった。 ―――俺の願いは、叶わなかったっていうことだな。 「あ、あ、そうだ・・・! 記事! 僕はまだ、今日の分の記事を書いていないんだ! 今すぐに、冬弥は死んでいないっていう記事を書く!」 机に置いてあった紙に、友亜は必死に筆を走らせる。 その姿に冬弥は少し期待してしまった。 物欲を叶えることはできないという話で、友亜の願いはそれに近い。  というより、人の生き死にに関与できるなら、そもそもこのような状態になっていないはずだ。 ―――それでも、もしかしたら・・・。 人は100%無理だと思っていても、自分の望む未来はあるのではないかと信じてしまうことがある。 冬弥も同じだった。 だが無情にも、叶う願いがあと一つだと分かる。 そして、友亜が書いているその記事は元々有効ですらないということも。 記事を書き終えた友亜は、冬弥を祈るように見た。 だが当然、身体は透けたままだ。 「ッ、どうして・・・! どうして僕の願いが叶わないんだよ! 叶え、叶えよ!! 僕は、自分の願いは一切叶えず、他の人の願いを今まで叶えてきたんだぞ!   だから・・・最後くらい、僕の願いを叶えてよ・・・ッ!」 記事には『スクープ! 冬弥は死んでいなかった! これからもずっと、冬弥と友亜は親友のまま!』と殴り書きされていた。 泣き崩れる彼を見て、胸が痛む。  「友亜・・・」 ―――俺の願いは叶わなかった。 ―――そして、友亜の願いも叶わなかった。 まるで鐘の音が鳴るような音が頭に響き、最後の願いが叶ったと分かった。 それはつまり、冬弥の人生の終わりの音だ。  その直後、廊下から誰かが走ってくる足音が聞こえ、それは美術準備室の前で止まった。 そこに立っていたのは千晴だ。 顔を赤らめ、緊張しているのが伝わってくる。 「友くん! 私、友くんのことが好きです!」 「え・・・。 千晴、ちゃ・・・」 500個目に叶った願いは、千晴のものだった。 いきなりな気もするが、それは記事に書いた願いのためなのだろう。 友亜は突然の告白に驚くも、思い出すようにして冬弥のいる方へ振り返る。  だがそこには、誰の姿もなかった。 「え、え、嘘でしょ・・・!? 冬弥? 冬弥!」 友亜は千晴そっちのけで、冬弥がいた場所を探す。 引き出しの中に、いるはずなんてないのに。 「え・・・。 冬弥くんが、どうしたの?」 千晴は当然、冬弥が入学式の日に死んでしまったことを知っている。 知ってはいるが、それは悲しい記憶のため出来たら触れたくないものだった。 「冬弥、どこへ行ったんだよ! 出てきてよ、今すぐに! 僕を置いていかないでよ! お願い、だから・・・ッ。 嘘、嘘、だろ・・・」 何度見渡しても、教室には友亜と千晴の姿しかない。 「ぼ、僕の、せいだ・・・。 僕が、記事なんて書いたから。 記事なんて書かなければ、冬弥は消えずに済んだのに!」 500個の願いが叶ったら、冬弥は消える。 それを思い出し、頭を掻きむしった。 そのまま友亜は、千晴を置いてこの教室から飛び出した。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加