願いを叶える記事と、友の願い

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冬弥は二週間前の入学式の日、不注意と不幸が重なり死んでしまった。 小学校と中学校は家から見て逆方向にあり、今までの習慣から変わって友亜を迎えに行く必要があった。 慣れない道、新しい場所。 それに浮かれていたのかもしれない。 ―――桜、満開までまだまだだな。 ―――ようやく半分咲いたくらいか。 桜並木道を歩きながらそう思う。 ―――今年も、友亜と一緒にお花見をしたいな。 ―――俺の家族と、友亜の家族と一緒に。 恒例行事のように、お互いの家族で集まり花見をしていた。 交互に場所取りをしているのだが、今年は冬弥の家の番。  どこかにいい場所はないか、今のうちに探そうと思い周りをキョロキョロと見渡した。 すると大きな桜の木の下が、広い面積で平たんになっているところを発見する。 「あ!」 いい場所を見つけ、視野が狭くなっていたために気付いていなかった。 赤信号を無視して、道路を走っていたことに。 その後のことはどうなったのか知らないが、おそらく即死だったのだろう。  痛みも恐怖も覚えていない。 「どこだ、ここ・・・」 冬弥自身何が何だかよく分かっていないが、気付けば一面真っ白な世界だった。 「ようやく目覚めたか」 目の前には、頭に輪っかを浮かべた爺さんが立っていた。 神様とかそんな感じなのだろう。 「誰?」 「ワシは天国の案内人みたいなもんじゃ。 君はまだ未成年だね。 自ら命を絶ったわけではないから、こっちの方面へ進んでいけ」 指示した先に、すーっと道が現れる。 先程まで、真っ白で何もなかった場所だった。 「え、は!? 天国!? どうして俺がそんなところに!」 「憶えていないのか? 君は死んだんだぞ」 「いつ!?」 天国の案内人は事情を細かく教えてくれた。 生きているのか死んでいるのか、それを認識できていない魂は、遅かれ早かれ壊れてしまうなどそんな理由らしい。 「そんな・・・。 俺にはまだ、やり残したことがたくさんあるんです! 元の世界へ戻してください!」 「君、何を言っているのか分かっているのか? 人間は死んだらもう二度と、生きることはできないんだぞ」 「それはッ・・・! そうだけど・・・」 「やり残したことか。 誰しもやり残しなしに死ぬことなんて、できやしないのじゃ」 例え老衰で死ぬとしても、年齢が理由なだけで全てをやり尽くしたという人はいない。 それは冬弥も分かった。 「友亜が心配なんです。 友達もいないから、一人残してしまうのは・・・」 「ふぅむ。 自分のことではなく、他人のために、か」 「他人じゃなくて親友です!」 天国の案内人の纏う空気が、僅かに重くなった気がした。 「親友のために命を懸けれるか?」 「命・・・? 俺はもう死んだんじゃ」 「肉体はな。 魂はまだ生きておろう? 魂が死ねば虚無。 一切合切を闇が飲み込み、二度と浮上することはできぬ」 「虚無・・・」 「そうじゃ。 お主が言う“やり残したこと”が終われば、魂は掻き消える。 それでも現世に戻りたいと申すか?」 正直、たじろぎそうになった。 だがここで引いてしまえば、友亜に二度と親友だなんて名乗れない。 「構わない。 友亜のために俺の魂を使えるなら」 爺さんはニヤリと笑った。 「・・・じゃあ願いを言え」 「願い?」 「あぁ。 お前に願いを叶える力を与えよう。 願いが叶うか、または不必要に時間が経過すれば魂は虚無へと落ちる」 「友亜を、人気者にしてください」 こうして自分の魂を犠牲に、現世へと戻る機会を得た。 だが他の人からは、冬弥のことを認識することができない。 世界でただ一人、友亜だけがその姿を見ることができるのだ。
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