願いを叶える記事と、友の願い

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冬弥は授業をまともに聞く気はなかった。 勉強は将来自分のためになるからするのであって、未来がない自分には意味がない。 だからと言って、友亜の邪魔をするわけにもいかない。  正直、退屈しのぎに授業を聞いているだけだ。 そんな退屈な時間をいくつか終え、休み時間になると友亜の周りには人が集まってくる。 「友亜くん! さっき憧れの先輩と話せたの! ありがとう!」 「どういたしまして」 「俺も俺も! さっき高橋さんと二人きりになれたんだ! 友亜のおかげだよ!」 「いや、僕は何も・・・」 願いは些細なものが多い。 というのも、あまり大きな願いは友亜が先に断ってしまうためだ。 何もないところから、何かを生み出すことはできない。  誰かが幸運になるということは、誰かが不幸になる可能性もある。 ―――もし友亜が悪用するなら、俺も終わりだ。 人気者になりたい。 それを叶わないと判断された時点で、おそらく冬弥の魂は消滅する。 案内人は言っていなかったが、何故かそう確信していた。 だが確かに人は、集まるようになっていた。  客観的に見れば、人気者になったと思う人もいるだろう。 ―――もしそうなら、俺は消滅しているはず。 していないということは、友亜はまだ人気者でないということだ。 ただ願いを叶える力を持っているから、人は近付いてくるだけ。 もしその能力がなくなれば、蜘蛛の子を散らすように人はいなくなる。  それどころか、逆に悪感情を持たれる恐れすらあった。 ―――難しい・・・。 ―――安易な願いは失敗だったのかも・・・。 それでも友亜は、以前より楽しそうに笑っている。 冬弥にとって、それが一番重要に思えた。 「お疲れ様」 「ありがとう!」 人がいなくなったのを見計らい、冬弥から声をかけた。 「友亜は、自分の願いは書かないの?」 「あ、うん。 書かないつもりでいるよ」 「どうして? 折角友亜が得た能力なんだ。 人のために使うのもいいけど、自分のためにも使わなきゃ」 「もう既に、自分の願いは叶ったようなものだよ。 こんなに人に囲まれるの、嬉しいし。 ・・・それに僕は、自分のことは自分で叶えたいから」 ―――・・・本当、友亜は自分をしっかりと持っているよな。 「でも、周りのみんなの願いは叶えてあげるんだ?」 「うん! 記事を書くのは止めないよ! みんなの笑った顔が見たいからさ」 ―――どうしてこんなにいい奴なんだろう。 ―――願いを叶えることをきっかけに、みんなは友亜のことをよく知るべきだよ。 「そっか。 友亜らしいね」 「ありがとう」 そこで突然友亜は、時計を気にし出した。 いや、突然ではない。 冬弥はその理由も分かっていた。 「千晴さんのところへ行きたい?」 「・・・うん」 「行ってらっしゃい」 「え、冬弥は来てくれないの?」 「そろそろ一人でも大丈夫じゃない?」 「大丈夫じゃない! 冬弥も一緒に来て。 隣にいるだけで、何も話さなくていいから」 “千晴”というのは、友亜の好きな女の子だ。 小学校の時から、積極的に話しかけているのを知っている。  中学に入ってからは友亜の周りに人だかりができなかなか話せなくなったが、時間を見つけては話しにいっていた。 「ち、千晴ちゃん!」 「あ、友くん!」 名前を呼び合えるのも、彼女と仲がいい証拠。  「相変わらず、友くんは人気者だね。 昨日とか私から話しかけに行こうとしたんだけど、みんなが友くんの周りに集まっているから行けなくて」 「え、嘘!? 気付かなくてごめん!」 「いいよ。 友くんが人気者なの、私は嬉しいし」 「よかったら、千晴ちゃんの願い事も書くよ?」 「んー・・・。 私はいいかな。 今のところ、叶ってほしいことはないかも」 千晴は考える素振りも見せず、そう言った。 友亜と同じで“自分の願いは自分で叶えたい”と考えているのかもしれない。 冬弥としては、二人が仲よさそうに話しているのは嬉しい反面、少し寂しい気持ちもした。 「そっか、分かった」 だがそんな千晴も、友亜の不思議な能力のことには興味があるようだ。 「ねぇ、前から気になっていたんだけど。 記事に書いたことが本当に叶う能力って、どうやって手に入れたの?」 「え? さ、さぁ・・・。 小学校の頃は、そんな能力なんて持ち合わせていなかったの、千晴ちゃんは分かるよね?」 新聞部としてやってきたのは、小学校からのため記事はずっと書き続けている。 当然だが、友亜の能力は冬弥が死んでからのものだ。 友亜自身全くよく分かっていないのは、冬弥が詳しいことを伝えていないからだった。 「うん。 たくさん記事を書いていたもんね。 だから私、全て友くんが自ら叶えにいっているのかなって思っているんだけど」 「どういうこと?」 「先生にあの子を指名しないよう交渉したり、女子に『あの男子と話してきて』って頼みにいったり?」  多くの人の願いをそう叶えるのは、流石に無理だろう。 「そ、そんなことはしていないよ!」 「え、そうなの? じゃあ、どうやって願いを叶えているの?」 「僕も、分からない・・・。 言われてみれば、そんなことを考えたこともなかった・・・。 現実になると知った時は、ただ嬉しくて、周りにも早く伝えたくなっちゃって・・・」 「・・・そっか。 友くんは、不思議な能力の持ち主に選ばれたのかな」 全ては冬弥の魂と引き換えに手に入れた能力だ。 それを友亜は、全く知らなかった。
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