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もちろん、冬弥の願いは“友亜を人気者にしたい”ということであって、願いを叶えることができるようにとは違った。
入学式の翌日。 つまり、死んでから生き返ったその日ということになる。 冬弥は友亜の家の前で待っていた。 本来なら既に学校へ行っている時間で、予定をかなり過ぎている。
―――・・・友亜、出てこないな。
―――やっぱり俺が死んだら、そりゃあ一緒に行く必要はなくなる・・・けど、それだと遅過ぎるか。
―――もしかして、悲しんでくれているのかな?
生き返ったというのとは違って、冬弥の姿は透けている。 いわゆる霊といった状態だった。 だが他の誰にも自分を認識できないということと、触ろうと思えば物を触れるということは分かっている。
インターホンを押さないのは、友亜以外が出てくるとどうにもできないためだ。 そのうち家のドアが開き、そこから暗い顔をした友亜が現れた。
「・・・行ってきます」
「よッ!」
「・・・え? 冬弥?」
「そうだよ、俺だよ」
赤く腫れた目をパチクリとさせるのが、少し面白かった。 同時に、明らかに纏う雰囲気が明るくなっている。
「え、え、本当に!? ど、どうしてッ・・・」
「さぁ、どうしてでしょう? 1、事故はあったけど死ななかった。 2、死んだけど生き返った。 3、本当は事故自体が起きていない。 友亜はどれが正解だと思う?」
クイズ形式で聞いてみたが、実際この中に正解はない。 友亜に真実を言うつもりはなかった。 何故ならば、友亜の幸せは冬弥の幸せでもあるが、同時に冬弥は消滅してしまう。
友亜がそれを知れば、冬弥の思うようにはならない可能性が高かったからだ。
「事故があったなら、怪我とかしているだろうからそれは除外して・・・。 まさか、昨日の事故自体が夢・・・?」
「まぁ、どうでもいいよ。 それよりもさ、ちょっと凄い話があるんだけど、聞かない?」
「・・・え、何?」
友亜は少し不信感を抱いている。 無理もない。 死んだと思っていた友達が、急に目の前に現れたのだから。 まだ友亜の興奮は収まらないらしい。 そんな彼に、ノートとペンを借りた。
「願い事を一つ、書いてみてよ。 ただし、記事みたいに書いてね」
特に何かを限定するわけではなく、記事という形態さえ取れば何でもいい。
「願い事・・・? 例えば?」
「んー、例えば・・・。 “スクープ! 大きな虹が突然出現! 周りは興奮に包まれ大騒ぎ!”とか」
「今の、そのまま書いてみてもいい?」
「どうぞ?」
友亜は半信半疑といった具合で、ノートにペンを走らせた。 空を見上げれば、本当に虹がかかっている。 雨なんて全く降ってなかったというのに、だ。
―――俺自身、信じられなかったけど本当に叶うみたいだな。
冬弥が空を見上げるのにつられるよう、友亜も上を見た。
「え!? 本当に虹がある! どうして? 雨なんて降っていなかったのに!」
「ちょっと好きに書いてみなよ」
「どんなものでもいいの?」
「人に迷惑がかからないものなら。 あとは、物欲を叶えることはできない」
少し遠くに兄弟喧嘩をしている二人を見つけると、友亜はペンを走らせた。
“スクープ! 兄弟が喧嘩から仲直り!? 二人揃って仲よく登校!”
すると兄が謝り、二人は突然仲直りをした。 記事のおかげかどうか分かり難いが、今目の前で起きたことに変わりはない。
「本当に、叶った・・・! 名前が分からない人でも、願い事は叶うんだね!」
「うん。 でも、一人一日一回だから気を付けて。 願い事を叶えられるのは」
「分かった!」
友亜は本当に嬉しそうにしている。 それだけで、ここへきた甲斐があったというものだ。
「これでクラスへ行ったら、みんなに自慢できるね。 友亜がクラスメイトの願いを叶えてあげたらいい」
「え、僕が!? これは元々冬弥のものだし、冬弥がやったら・・・」
「俺がやったら意味がないよ。 それに友亜は、みんなが笑っているところを見たいんだろ?」
「・・・うん、分かった。 ありがとう」
友亜は、冬弥が生きているとすんなり信じ込んだ。 実際は、死んでしまったことを信じられなかったのだと思う。 騙しているような形になり少し心苦しいが、友亜が笑ってくれるならそれでよかった。
友亜は冬弥が言ったように、この能力を使うことにした。 というのも、これは友亜にとっての最大の願いであった“冬弥が生きていてほしい”という願いが叶った結果だと思っている。
つまり冬弥の言うことは絶対で、それを外せば全てが壊れてしまうと考えたのだ。
登校した後、友亜は冬弥の後押しでクラスメイトに勇気を出して話しかけてみる。 そこから友亜の周りには、人が集まるようになった。 だがそうなると、気軽に話しかけることができない。
他のクラスメイトからは見えず、誰とも話せない冬弥は少し寂しかった。 自分とだけ仲のよかった友亜が“寂しくないように”と思っていたのに、今は自分が寂しさを感じている。
そしておそらくは、最終的に自分の魂は消滅し虚無へと落ちる。
―――願いが500個叶うまで・・・か。
それが天国の案内人と話した制約、タイムリミット。 ただし、それを友亜に伝えてはいけない。 それまでに信頼を築き、本当の人間関係ができればいいと思っていた。
―――願いを叶えることができなくなった友亜から、一体どれくらいの人が離れていくんだろう。
当然だが、願いだけを目的としてる人も大勢いる。 ただその中に数人でも、友達として残ってくれる人がいればと期待していた。
―――友亜が、とても素直でよかった。
―――疑うことなく、俺を信じてくれたから。
―――・・・・まぁここまで人がいいと、逆に心配しちゃうけどね。
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