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冬弥は授業が始まる前から、席に着き考えていた。 というのも、今日こそ重大な節目だと思っていたからだ。
―――おそらく今日、俺は消えることになる。
―――・・・今願いが叶った数は、483個。
―――俺がいなくなるのと同時に、記事に書いたものが実現するっていう能力もなくなるけど・・・。
―――友亜は大丈夫かな。
―――願い関係なしに話すようになった人も、増えたとは思う。
―――だけどそれが、本当の友達なのか俺にはまだ分からない。
後ろの席にいる友亜の方へ目を向ける。 もうこんな風に幽霊としてもいられないと思うと、寂しくなった。
「授業を始めるぞー。 今日の総合の授業は、いじめについてだ。 今からみんなには、映像を見てもらう」
流れたのはいじめのミニドラマ。 入学してから早々重たい授業だが、今の時期だからこそ効果が高いと思えた。 シチュエーションは、学校を舞台にしたありふれたもの。
主人公がいじめの当事者の仲裁に入る形だ。
“授業が終わった放課後、体格の大きな少年が、小柄な少年にバケツと雑巾を押し付けようとしている。 暇だろうから掃除当番を変われ、と迫っているところだ。
一度は否定するものの、恐怖から声がすくんで押し切られそうになってしまう。 そこに颯爽と主人公が登場だ。 与えられた役割は、与えられた人間がやることに意味がある。
人に押し付けているようでは、誰からも信頼を得られない。 それにいじめっ子が反論するのだが、理論的ではなく、結果的には感情が爆発しいじめられっ子に水を被せ罵倒した。
与えられた役割をこなすことは、面倒で時間が勿体ないのだという。 ならそれを押し付けた相手はどうなるのだろうか。 誰だって思うことは同じだ。
そして濡れた自分たちの姿を晒しながら、それを証拠にして先生に話をする、と言っていじめっ子を言い負かすのだ”
その話の中で、主人公も水を被ってしまうのだが“自分を犠牲にして助けることができればそれでいい”と言っていた。 それが冬弥は気になった。
―――・・・犠牲、ね。
授業が終わり、友亜に話しかける。
「友亜ー。 今の授業、話がめっちゃ重かったな。 ・・・って、どうした?」
「・・・ううん、別に」
「?」
明らかに様子は変だが、今は詳しく聞くことを止めにした。 何故なら、友亜の周りに人がまた集まってきたからだ。 冬弥のことを見えない彼らは、冬弥の席にすら座ろうとする。
重なることもできるのだが、何となくいい気分がしないため冬弥は席を立った。
「友亜くん! 私の願いも叶ったの! 本当にありがとう!」
「う、うん・・・」
報告は強制でないが、叶ったことを報告をする者もいる。 それが噂となり、友亜の能力は広まっていったのだ。
「友亜ー! 俺、今日の願い事はまだ言っていねぇよな? 書いてほしいことがあるんだけど!」
「・・・あ、うん。 いいよ」
冬弥はそれを見て、軽く溜息ついた。
―――・・・まぁ、友亜が元気ない理由は分かっているけどさ。
友亜は相変わらず記事を書き続けている。 周りからの要望は一応全て応えているが、今となっては顔を引きつらせていた。
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