願いを叶える記事と、友の願い

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放課後になり、冬弥は友亜を部活に誘った。 もちろん冬弥は部活に参加などできはしないため、付き添いのようなものだ。 あれから特別な変化は身体にない。  身体の震えも収まったことから、おそらくは精神的なものだったのだろう。 ―――相変わらず、景色は薄いけど。 普通に行動をすることに支障が出る程ではない。 ただ相変わらず、友亜の機嫌はよくなかった。 ―――どうしたんだ、友亜の奴。 ―――今までこんなことはなかったのに。 バッグを持ち一緒に廊下へ出る。 すると、友亜に話しかけてくる女子がいた。 「友亜くん! また明日もよろしくね!」 「あ、うん」 男子生徒からも声をかけられる。 「友亜ー、また明日ー!」 「また明日・・・」 客観的には人気者になったと言える。 普通はこれ程人が集まってきたりはしない。 だが友亜が、全く喜んでいないのだ。 ―――・・・そんなに暗い顔をするなら、記事をもう書かなければいいのに。 ―――そしたら俺も、もう少しここにいられるのかもしれない。 ―――・・・はは、実際一人になって寂しくなるのは、友亜じゃなくて俺だったのかもな。 ひと段落がつき二人は部活へと向かう。 冬弥は入学式当日に死んでしまったため、当然部活なんかに入れるはずがない。 だが友亜は冬弥が生きていると思っていることから、新聞部に入部したということにしていた。 ―――誰も俺のこと、見えないけど。 部活へ行ったら友亜と話す機会がなくなってしまう。 つまり二人で話すのは、今が最後となるだろう。 友亜が書いた記事はどのくらいの時間で叶うかが分からない。  おそらくはもう500個分書いているだろうから、冬弥が消えるのも時間の問題だった。 「・・・友亜、元気?」 「・・・うん」 「今の気持ちは、どう?」 「記事を書きたくなくなってからのこと?」 「そう」 「・・・みんなの笑顔が見られなくなるから、僕は書き続けるってさっきは言った。 だけどもう一つ思うことがある」 「それは何?」 冬弥は友亜が何を言うのか、何となく分かっていた。 「もし僕が、書くのを止めたらどうなるのかなって考えたんだ。 ・・・そしたらみんなは、もう僕には興味がなくなっちゃうのかな」 普通なら誰もが思うことだ。 冬弥もこのままの関係が続くとは思わない。 だからと言って、真正面からそれを肯定することもできない。 「そんなことはないよ。 記事を書くのも書かないのも、強制ではない。 友亜の自由なんだ」 「じゃあもしも、僕が書くのを止めなかったとするよ。 だけど突然、記事が実現するっていう能力が消えてしまったら?」 「・・・」 友亜の不安は、おそらく今日現実になる。 そして、その後どうなるかは冬弥は知ることができない。 「・・・みんな、怒らない?」 「怒るわけがないだろ。 みんながみんな、友亜のその能力を利用しているわけではないんだから」 「でも怒る人、絶対に複数はいるでしょ?」 「それは、分からないけど・・・。 でも俺は、ずっと友亜の味方でいるよ」 「・・・冬弥なら、そう言ってくれると思ってた。 だから僕ね、もう冬弥だけがいればいいかなっていうのも考えたんだ。 そしたら僕が書くのを止めようが能力が消えようが、もう関係がないから」 『なら記事を書かなければいい』 『そうしたらもう少し、一緒にいられるのかもしれない』 そのような言葉が出かかったが、グッと堪えた。 先延ばしにしたとしても意味がない。  ただ今の状態で自分が消えて、友亜が以前みたいに戻ってしまわないか不安でもあった。 「それは俺は反対だ。 友亜には、たくさんの人と話していてほしいから」 「冬弥は、僕と一緒にいるのが嫌なの?」 「そんなことは言ってないだろ。 友亜が他の友達を作る、これが俺の一つの願いでもあるんだから。 それに既にできた友達は絶対に消えない。   友亜が記事を書くのを止めようが能力が消えようが、一度できた友達は離れていかない」 「その保証はどこにあるの?」 「俺が保証する」 「・・・」 本当は保証なんてできるわけないが、そう言うしかなかった。 それで離れていってしまう人間は、元々友達ではないのだ。 言いたいことは全て言い切った。 ―――もし俺なら、友亜から離れていかない。 ―――友達として残ってくれる人も必ずいるはずだ。 だがその後も、友亜の顔は浮かないままだった。 部室へ着くと、友亜には早速とばかりに人が集まってくる。 願いを叶える力が知れ渡り、新聞部には部員が例年より多く集まっていた。 ただ部活中に、願いを求めることは禁止。 それは新聞部として活動するにあたって、当然とも言える決まりだ。 ―――何とも言えないけど、楽しく話せる相手がいるだけで十分なのかな。 新聞部だからといって願いの優先権があるわけではない。 それでも人が集まったのは、おそらくは“自分もその力を使えるようにならないか”という期待が大きいだろう。 当然それは不可能だ。  あくまで冬弥と友亜の間での契約みたいなもので、他人に譲渡はできない。 ―――一度不安を抱いてしまえば、それを解消するのは難しいか。 友亜の顔は部活中も暗かった。 一度思い込んだら、頑固なのは昔からの性格だ。 ―――・・・これでお別れっていうのも、何かな・・・。 ―――綺麗な別れ方ではないし、モヤモヤする。 ―――せめて、友亜が最後にでも笑ってくれれば・・・。 友亜が部員と話している間、冬弥はこっそり友亜のバッグを手に取った。 その中から願いが書かれた紙を取り出す。 あとは自分のペンを持ち、こっそりと部室から抜け出した。 友亜は部員に囲まれていたためか、冬弥がいなくなったことに気付いていなかった。
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