9人が本棚に入れています
本棚に追加
放課後になり、冬弥は友亜を部活に誘った。 もちろん冬弥は部活に参加などできはしないため、付き添いのようなものだ。 あれから特別な変化は身体にない。
身体の震えも収まったことから、おそらくは精神的なものだったのだろう。
―――相変わらず、景色は薄いけど。
普通に行動をすることに支障が出る程ではない。 ただ相変わらず、友亜の機嫌はよくなかった。
―――どうしたんだ、友亜の奴。
―――今までこんなことはなかったのに。
バッグを持ち一緒に廊下へ出る。 すると、友亜に話しかけてくる女子がいた。
「友亜くん! また明日もよろしくね!」
「あ、うん」
男子生徒からも声をかけられる。
「友亜ー、また明日ー!」
「また明日・・・」
客観的には人気者になったと言える。 普通はこれ程人が集まってきたりはしない。 だが友亜が、全く喜んでいないのだ。
―――・・・そんなに暗い顔をするなら、記事をもう書かなければいいのに。
―――そしたら俺も、もう少しここにいられるのかもしれない。
―――・・・はは、実際一人になって寂しくなるのは、友亜じゃなくて俺だったのかもな。
ひと段落がつき二人は部活へと向かう。 冬弥は入学式当日に死んでしまったため、当然部活なんかに入れるはずがない。
だが友亜は冬弥が生きていると思っていることから、新聞部に入部したということにしていた。
―――誰も俺のこと、見えないけど。
部活へ行ったら友亜と話す機会がなくなってしまう。 つまり二人で話すのは、今が最後となるだろう。 友亜が書いた記事はどのくらいの時間で叶うかが分からない。
おそらくはもう500個分書いているだろうから、冬弥が消えるのも時間の問題だった。
「・・・友亜、元気?」
「・・・うん」
「今の気持ちは、どう?」
「記事を書きたくなくなってからのこと?」
「そう」
「・・・みんなの笑顔が見られなくなるから、僕は書き続けるってさっきは言った。 だけどもう一つ思うことがある」
「それは何?」
冬弥は友亜が何を言うのか、何となく分かっていた。
「もし僕が、書くのを止めたらどうなるのかなって考えたんだ。 ・・・そしたらみんなは、もう僕には興味がなくなっちゃうのかな」
普通なら誰もが思うことだ。 冬弥もこのままの関係が続くとは思わない。 だからと言って、真正面からそれを肯定することもできない。
「そんなことはないよ。 記事を書くのも書かないのも、強制ではない。 友亜の自由なんだ」
「じゃあもしも、僕が書くのを止めなかったとするよ。 だけど突然、記事が実現するっていう能力が消えてしまったら?」
「・・・」
友亜の不安は、おそらく今日現実になる。 そして、その後どうなるかは冬弥は知ることができない。
「・・・みんな、怒らない?」
「怒るわけがないだろ。 みんながみんな、友亜のその能力を利用しているわけではないんだから」
「でも怒る人、絶対に複数はいるでしょ?」
「それは、分からないけど・・・。 でも俺は、ずっと友亜の味方でいるよ」
「・・・冬弥なら、そう言ってくれると思ってた。 だから僕ね、もう冬弥だけがいればいいかなっていうのも考えたんだ。 そしたら僕が書くのを止めようが能力が消えようが、もう関係がないから」
『なら記事を書かなければいい』 『そうしたらもう少し、一緒にいられるのかもしれない』 そのような言葉が出かかったが、グッと堪えた。 先延ばしにしたとしても意味がない。
ただ今の状態で自分が消えて、友亜が以前みたいに戻ってしまわないか不安でもあった。
「それは俺は反対だ。 友亜には、たくさんの人と話していてほしいから」
「冬弥は、僕と一緒にいるのが嫌なの?」
「そんなことは言ってないだろ。 友亜が他の友達を作る、これが俺の一つの願いでもあるんだから。 それに既にできた友達は絶対に消えない。
友亜が記事を書くのを止めようが能力が消えようが、一度できた友達は離れていかない」
「その保証はどこにあるの?」
「俺が保証する」
「・・・」
本当は保証なんてできるわけないが、そう言うしかなかった。 それで離れていってしまう人間は、元々友達ではないのだ。 言いたいことは全て言い切った。
―――もし俺なら、友亜から離れていかない。
―――友達として残ってくれる人も必ずいるはずだ。
だがその後も、友亜の顔は浮かないままだった。 部室へ着くと、友亜には早速とばかりに人が集まってくる。 願いを叶える力が知れ渡り、新聞部には部員が例年より多く集まっていた。
ただ部活中に、願いを求めることは禁止。 それは新聞部として活動するにあたって、当然とも言える決まりだ。
―――何とも言えないけど、楽しく話せる相手がいるだけで十分なのかな。
新聞部だからといって願いの優先権があるわけではない。 それでも人が集まったのは、おそらくは“自分もその力を使えるようにならないか”という期待が大きいだろう。 当然それは不可能だ。
あくまで冬弥と友亜の間での契約みたいなもので、他人に譲渡はできない。
―――一度不安を抱いてしまえば、それを解消するのは難しいか。
友亜の顔は部活中も暗かった。 一度思い込んだら、頑固なのは昔からの性格だ。
―――・・・これでお別れっていうのも、何かな・・・。
―――綺麗な別れ方ではないし、モヤモヤする。
―――せめて、友亜が最後にでも笑ってくれれば・・・。
友亜が部員と話している間、冬弥はこっそり友亜のバッグを手に取った。 その中から願いが書かれた紙を取り出す。 あとは自分のペンを持ち、こっそりと部室から抜け出した。
友亜は部員に囲まれていたためか、冬弥がいなくなったことに気付いていなかった。
最初のコメントを投稿しよう!