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とある森の奥深く、崩れた鳥居の跡が残るその奥に、今にも崩れ落ちそうな小さな社がある。 木漏れ日に眩しそうに目を細め、壊れかけた社の中、足をぶらぶら揺らして座る子供が居た。 年は、六才位だろうか。ふわふわの黄金色の髪に、くりっとした大きな瞳は琥珀色。神職のような袴姿で、首には深い青色の石が嵌められた首飾りを掛けている。 「マコー、マコ居るかー?」 声に反応して、ふわふわの髪からひょっこりと三角の耳が飛び出した。髪と同じ色の耳、腰元からはふわふわの毛に覆われた大きな尻尾が生えている。 マコと呼ばれた少年は、嬉しそうに社から飛び出した。 「ここだよ!リン!」 大きく手を振るマコの前に現れたのは、黒い小振りな翼を生やした少年だ。 マコより大きく、年齢は十二、三才位か。黒い短髪に、少々目つきは悪いが、その黒い瞳にはまだあどけなさが残る。服装も黒一色だ。 「イブキ様が一緒に飯どうだって」 「食べる!」 「マコ、どうせならイブキ様の元に来たらどうだ?この社にはもう、」 「僕には主様がいるから」 どこか心配そうな顔のリンに、マコはにっこり微笑んだ。 主様、どこにいますか。 体は痛いところ無いですか。 ご飯は食べていますか。 僕は、ずっと主様を待っています。 主様、会いたいよ。 「気持ち良いなー!見てみろよ(あき)!広い!何もない!空気が旨いってこういう事言うんだな!」 東北のとある町のとある駅。新幹線を下りた青年は、目前に広がる長閑な風景にはしゃいだように両手を広げた。 最近新しくなった駅舎は近代的で立派だが、町に目を向ければ、バスのロータリー周辺に土産物屋が建ち並ぶ位で、その先は山々しかなく、広々とした景色が広がっている。 「な、暁!」 そう言って振り返るのは、夏丘智哉(なつおかともや)、25歳の会社員だ。ふわふわの髪は明るい栗色で、その瞳は見知らぬ町への好奇心からかキラキラ輝いている。見た目通りの明るい青年だ。 彼に反して陰鬱な空気を纏っているのは、清瀬暁孝(きよせあきたか)。智哉と同い年で幼なじみ、職業は小説家だ。 何故彼がこんなにも暗く虚ろな表情を浮かべているかというと、新幹線に酔ったからであり、元々この旅に乗り気ではなかったからだ。 さらりとした黒髪に、切れ長の瞳は一段と目つきが悪いが、端整な顔立ちだ。クールで静かな雰囲気、というかちょっと怖い。 しかし、さすが長い付き合いの幼なじみとでもいうのか、暁孝の威圧的な眼差しをものともせず、智哉は暁孝の腕を引く。 「で?この後はどうするんだ?」 「…とりあえず宿の確認だ」 「えー先に行ってみようよ!そいつ困ってるんだろ?」 「ダメだ。どうせ山は宿の先だろ。先ずは車借りて、宿に荷物を置いてからだ。(はじめ)さんに連絡も入れないといけないしな」 そう言って歩き出す暁孝に、智哉は渋々後に続いた。 二人がこの町にやって来たのには、ある理由がある。それは、一週間前の事だ。
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