ただいまが聞きたくて

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ーーーー彼女とは恋愛結婚では無かった。  今の若い人達は、時間を掛けてお互い惹かれ合いながら結婚へ進む場合が多いが、私達の時代は全く違っていた。一度も会った事のない異性を親が連れて来て、一緒になれと告げられる家庭も多かった。  経済的に余裕のある家はそれこそ恋愛の経験も出来たのかもしれないが、明日の飯をどうしようかと考える暮らししか出来なかった私には人を選ぶ事など到底できない話だった。  彼女もきっとそうだったに違いない。私に好意など持っていなかっただろう。結婚してから、一度もそういった類の話はして来なかったが、彼女が歯を見せて笑うようになったのは子供が出来て数年経ってからだった。  私に関して言えば、愛を囁いた事もなければ、感謝の言葉すら口に出して来なかった。家事や育児なども全て任せ切りだった私を、彼女は恨んでいた可能性だってある。
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