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だが彼女は、私に対して愚痴や弱音を一切吐かなかった。今思えば、言えない環境に私がしてしまっていたのかもしれない。
それならば悔やんでも悔やみきれないが、過去は変える事なんて出来ない。
結婚して五十年経過してみないと分からない事もある。それは、彼女の好物がプリンだという事だ。
どうして好きなのかと問うてみると、子供の頃からの憧れの固まりだからと彼女は応えた。それから私は、外へ出掛ける度にプリンを買って帰るようになった。
私が様々な種類のプリンを彼女に手渡すと、彼女は満面の笑みで「ありがとう」と言葉を返して来る。
皺が刻まれた顔を更にクシャクシャにして笑うその顔が見たくて、私はまたプリンを買いに走る。
恋愛というものを知らない私だが、もしかしたらコレは恋愛と呼んでもいい感情なのかもしれない。
彼女の笑顔が見たいが故の行動だった。
そんな彼女から私の記憶が消え始めたのは、今から三年前の事だった。
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