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夜中にふと目が覚めて隣を見ると、彼女は何故か座っていた。十年前に高架下で拾ってきた猫を膝に抱きながら、ブツブツと独り言を呟いている。
「京子、どうした?」
私がそう話し掛けても、彼女は一向に反応しない。
「ミケちゃん、お腹減りましたよね。ミケちゃん、お魚食べますか? ミケちゃん、良い子ですね」
「おいおい、ミケももう寝ているだろう? 一体今何時だと……」
そう言いながら私が彼女の顔を覗き込んだ時、黒目は左右に振幅し、口から泡を吹いていた。
尋常ではない彼女の様子に焦った私は救急車を呼び、彼女が眠るまで病室で手を握っていた。
診断結果は、軽い脳梗塞から来る脳血管性認知症。
彼女が目覚めて初めて口にした言葉は、子供の名前でも無く、私の名前でも無く、プリンという一言だけだった。
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