お決まりの展開

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「晴さん、鑑定書置きますよ」 「はい、ありがとね」  本日の調査会社担当 田神くんが受け取った車両鑑定書をみんなに配り歩く。日付印の押し忘れを指摘され、作業台に戻って押してと、可愛らしいミスにバタバタ、いや、ジタバタしている。いつまでも不慣れな感じは、それはそれで可愛い。 「ん?これ、課長…」  私の鑑定書に課長の、それもこの前見つけたベンツの鑑定書が紛れ込んでいた。  迷う必要はない。それも純然たる興味でしかない。夏の終わりのセレモニー、そう、肝試し的な感じで鑑定書をめくる。 「うっわぁー」  身震いした。損害額で痺れた。やっぱりベンツと事故しちゃいけない。(事故時に車種は選べないと思うけど)  あっ…  車の所有者は廃業した田村さんと同じ苗字。あちらは廃業で、こちらはベンツを乗れちゃう田村さん。世は無常。  あれ?でも待って…  これって田神の誤配ではなく、田神が私と月島との会話を聞いてたって証拠じゃない?  何かを吸収しようとするのは悪いことじゃない。盗み聞きだって大切。でもそんなことできるって、まだまだ余裕があるってことだ。ふーん。田神くんをみくびっていた。明日からアサインを増やしてもらおう。  おっちょこ田神に代わって日付印を押し、課長席にお届けする。  基本、白石課長はのんびりしてる。カピバラと一緒の露天風呂が似合いそうな、ほっこり系。でもここ最近は仕事に忙殺されていた。部内ナンバー2の結城さんが異動になり、月島が戻ってきたが結局増員はされていない。その穴埋めをしてくれているのだ。  課長は電話対応中で、それもちょうどお届けに上がった鑑定書の案件だったみたいだ。『ありがとう』とふくふくの丸い手を上げ、私から直接それを受け取って広げる。  大量の書類の中から滑り出てきた事故報告書が課長のぷっくりお腹で止まり、なんとはなしに目にとまった。  ベンツの所有者で事故の被害者である、こっちの田村さんも保険会社は谷川ちゃんのところ。同じだ。変わった苗字でもない。でも日本人にめちゃくちゃ多い苗字でもない。  凄い偶然。  でもうちは示談書の返送待ち。もう終わったも同然だ。これはただの偶然。頭を切り替えて席に戻る。横からは、♪いい日〜旅立ち〜と鼻歌混じりに口ずさむ月島の声とリズムに乗ったホッチキスの音。ご機嫌だな、昨晩は楽しかったのかな? 「…………」  …楽しいことはいいことだ!うん、今のナシ!!よし!私には日本のどこかどころか、ここいらのそこかしこで私を待ってる人が長蛇してるぞ〜!  心の中で「次の方〜」と病院の呼び出しみたいに伝言メモを一枚取る。  おおっ!?谷川ちゃん?  
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