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その日は雨だった。朝から空がどんよりしていて、雨脚がとても強かった。
道を行く車のワイパーも忙しく動いているし、水しぶきをあげて走っている。
学校が終わった頃に、ようやくミストのような細かい雨に変わっていた。
バスの停留所でぼんやり空を仰いでいると、いつの間にか彼が私の手を握っていた。
私は驚いて、言葉を発せられなかった。
「あと5分、こうしていられるね」
そう微笑むので、私の顔はくしゃくしゃになった。
どうしてと言いそうになって、それを飲み込んだ。
「うん。5分こうしていられるよ」
微笑むと、彼は、私の手を自分の頬に引き寄せた。目を閉じて、私の体温を味わうようにずっとそうしていた。
私は、その仕草も彼もとっても愛おしいと感じた。
ヘッドライトが近づいて来た。いつもの赤いストライプが入ったバスじゃなくて、真っ白い輝きを放つ見慣れないものだった。
「バス、違うの来ちゃったね」と、私は言うのだけど、彼は困ったように首を横に振った。
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