2.部活後輩くんへ、届け名無しのラブレター

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「……で、今日も変わらず進展なしかあ」  昼休み。不満そうな顔でお昼ごはんのハムサンドを食べているのは、友達の()(とう)カナデ。ほおばったハムサンドを飲みこんだ後、両手を大きく広げて言う。 「もっとこう、ばーん! どーん! と進まないもんかねぇ。もじもじしてて見てられないよ」 「そう言われてもさー……」 「いっそのこと『ふたみん』って呼んでみたらどう? 語尾にハートマークつける感じで。あとニナも『ふたみん大好き』って言って抱きついてみるとか」  それができたら片思いをこじらせていないって。心中でツッコミしつつお茶を飲む。購買で買った紙パックのウーロン茶が最近のお気に入りだ。  ニナというのは私のあだ名。名字が西那なのでニナって呼ばれている。 「カナデちゃん、無茶言っちゃだめよ。ニナちゃんだって部活とか学年の違いとか色々あるんだし」  助け船を出してくれたのはもう一人の友達こと()()(あや)()。  綾乃と私はマネージャー仲間という共通点がある。私はバスケ部、綾乃は野球部のマネージャーだ。数名高校の野球部は今年こそは悲願の甲子園なんて息巻いているので、マネージャーも忙しいみたい。  そんな綾乃が参入してきたことでカナデの目が光る。 「やっぱ『甲子園に連れていく』なんて約束してもらった子は違うねぇ……」 「ちょ、ちょっとカナデちゃん!?」 「いいよねぇ、青春。相手はあの九重(ここのえ)でしょ? 何考えてんのかわからない無口男でも青春に染まるんだなぁ……で、もう付き合ったの?」 「付き合ったりとかそういうのは……今は大会もあるし……っていうか私たちそんなのじゃ」 「くー! 両片思いってやつ!? ドラマじゃん、青春じゃん。あーあ羨ましい」  綾乃をからかって満足したのかカナデは机に突っ伏してぼやく。  そんなカナデは恋多き乙女だ。オシャレが好きな子なので、部活に入るよりもアルバイトをして、可愛い服を一枚でも多く買いたいとよく話している。飽き性なところがあるのでバイト先はころころと変わり、『今度のバイトで彼氏を見つける』なんて宣言はよく聞く。 「のんびりしてられないんだよぉ……だってもうすぐ夏じゃん? 秋は受験勉強だし、冬は登校日少ないし。高校生でいられるのってあと少ししかなーい……」 「そうね――ニナちゃんも頑張らないと。二見沢くんと一緒にいられるのって今だけだよ。片思いもできなくなっちゃう」  頑張れってのは二見沢との距離を縮めろという意味であって、その意味が伝わっているから私は頭を抱える。  どうしたもんやら。はあ、とため息を吐いた時、教室の入り口で騒がしい声が聞こえた。 「ちーっす! バスケ部の連絡でーっす! 西那センパイと篠宮(しのみや)センパイいますかー?」  振り返れば、そこにいたのは二見沢だ。話をすればなんとやらというやつ。  目が合うと二見沢はずかずかと教室に入ってくる。上級生の教室でも容赦はない。 「あー、美味しそうな唐揚げ食べてる。いいなー」  一直線にこちらへやってきて、ぐいっと私の肩に顎を乗せる。視線は机上のお弁当に向けられているんだろう。  そのやりとりを眺めていたカナデは「騒がしいヤツきた……」とため息をついているし、綾乃は苦笑していた。 「ひとつ食べる? お腹いっぱいだからいいよ」 「ラッキー! 西那センパイって優しいからだーいすきっ」 「はいはい。じゃあ一つどうぞ」  二見沢は喜んで唐揚げをつまんでいる。それを食べ終えてようやく本題に入った。 「んで、連絡なんですけど。今日は体育館じゃなくて部室に集合になるそうです」 「わかったよ。教えてくれてありがとう。他の人たちにも伝えた?」 「三年生は……あとは篠宮センパイだけっすねー」  そう言って二見沢くんは教室を見渡すけれど、バスケ部三年の篠宮はどこにもいない。 「篠宮くんは、弟さんたちとご飯食べてるんじゃないかな? いつもお昼休みは教室にいないのよ」  きょろきょろと探している二見沢に言ったのは綾乃だ。 「なーるほど! 教えてくれてありがとうございます。で、センパイの名前は?」 「私は野球部マネージャーの久瀬綾乃です。よろしくね」 「久瀬センパイだね、かーわいい名前! オレ、優しいセンパイだーいすきっ」  いつもの流れに進んでハグ……となりそうなところで、私が止める。 「こらこら。綾乃に抱きついちゃだめだって。こわーい野球部の人たちにボコられるよ」 「それは困る! じゃ、オレは篠宮センパイ探してきまーす」  そう言って二見沢が綾乃から離れたので安心する。  放っておいたら綾乃にも抱きついていたんだろう。コミュ力があるというよりも人懐っこさが限界値まで達してフリーハグ男になっている気がする。  他の人にじゃれついているところを見るのは毎日のことで。それが先輩後輩男女関係なく、時には先生だってターゲットになっているぐらい。だから見慣れているけれど。  こじらせた片思いは、寂しいなあと呟いていた。私にしか聞こえない、心のずっと奥の方で。 ***
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