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※scene2※
「初夏あぁ! もう最高……俺、感動して途中歌えなくなった!」
胴上げでもしそうな勢いの幼なじみ、佐倉 将馬からちょっと後ずさって初夏は曖昧に笑った。
「大げさだなあ、将ちゃんは。でも無事に終わってよかった」
気がついたらステージの上で、ボーッとしている間に初夏のソロパートが始まっていた。練習通りにちゃんと歌えたのは、緊張がどこかへ飛んで行ってしまったいせいだろう。
「本当によかったわよ初夏。あがってグダグダな予感しかしてなかったのに」
「そうそう。一人で向こうの袖に行くときは泣きそうだったもんね」
クラスメートの友達も言いたい放題だが、確かに泣きそうだったのは事実。
(……あのおまじないまでは)
すぐ出番になり、あれこれ考える時間はなかった。けれど今こうして落ち着いてみても、初夏の頭には疑問符しか浮かばない。
ここ数ヶ月で親しくはなったものの、その経緯は実に穏やか。しかも特別彼に気に入られてるような様子もなかったのに。
(本当に緊張をほぐそうとしただけ……だよね)
とは言え、そういう大胆な手段をとるタイプだとは夢にも思わなかったけれど。
(やっぱり掴みどころがない不思議な人だ、陸くんは。そう思った方がいい)
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