冷え切った君の手を、私は。

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冷え切った君の手を、私は。

肌に湿った空気が纏わりつき、天気も不安定な初夏。 どんよりと重たい灰色の雨雲がパラパラ小雨を降らせる中、折り畳み傘を差し、殆ど人気のない細い路地を縫うように歩みを進める。 いつもなら通らない道。だけど私の数メートル先を傘も差さずに歩く天音凛君が気になってここまで来てしまった。 天音君はクラスでも、まるで自分の存在を消すかのようにあまり人とは喋らない。 クラスが高校に入学してから2年も一緒だけど、よく分からない謎めいた人。授業中の態度で、なんとなく何でも卒なくこなす人なんだな、くらいで。 顔が整っているから密かにクラスの女子からも人気。だからみんな天音君の情報を得ようとするけど、直接聞いてもはぐらかされてしまうらしい。 そんな天音君が帰り道、住宅街とは逆方向のあまり人が近寄らないエリアに向っていたから。単に好奇心でこっそり後を着いてきたのだ。 周りにあるのはコンクリートが剥き出しの廃れたビルばかりで、住宅街ではない。 「どこに行くんだろ」 やはり、謎。 また細い路地へと入って行く間も、絶えず雨粒が傘の上でリズムを刻み、踊ってる。足音で気づかれないように細心の注意を払い距離を保ちつつ着いていく。 天音君が右の角を曲がったので、慌てて早歩きして見失わないよう後を追う。 ――と。 天音君は、どこからか現れた黒いスーツを身に纏う40代半ばくらいの男と、向かい合わせで立っていた。 さっと身を引っ込め、顔だけ出して2人の様子を伺う。
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