冷え切った君の手を、私は。

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お父さん、なわけないか。 「……で、しょ」 「――、だ」 天音君も男も小声で話しているため私まで聞こえてこない。和やかな雰囲気でないことは、確か。 「……し、ただじゃ置かないです」 「……くれ!」 何やら急に男の方が焦っている。視線が泳ぎっぱなしだ。天音君は、教室にいる時と同様で表情に動きはないまま。 どうして男が、子供相手にたじろいているのだろう? 2人は私に気づいていないようだし、もう少し顔を出して様子を伺っても大丈夫なはず。勿論、目立つ赤い傘は見えない向きに差して。 「……れ、待ってくれ!」 「……」 天音君がじりじり男を壁際に追いつめ、逃げ場を無くしていく。男は顔面蒼白で。 いやいや、待って。バカみたいにどくどくどくと鼓動が早くなる。 この雰囲気はやばいんじゃないかな。天音君、何しようとしてるの。感じとれる不穏な空気に、反射的に体を前のめりにした――――瞬間。 「……、もう、終わりですね」 聞いたこともない冷徹な、声。感情が抜けたようなそれにいよいよ男は全身をがくがく震わせて。 「ま、ま、て―――っ!!」 「……っ」 全てが、スローモーションに見えた。これは夢か、現実か。 見て、しまった。 天音君が何の躊躇もなしに黒い“モノ”を、馴れた手つきで使いこなし、男を殺した光景を。 ねえ、天音君。 その黒い“モノ”は、男が真っ赤な鮮血を流す原因のそれは。拳銃、でしょう。 「あ、まね……っ、ぁ」 口から声が漏れ、急いで両手で塞いだため傘をバサッと落としてしまったことに気づくが、時既に遅し。 「誰」 今度は自分に銃口が、向けられた。息が止まる。 まって、違う、待って、待って、私をあの男と同じように拳銃で、撃たないで。お願い。 「あま、ね君」 背筋を冷や汗が伝い、体が動いてくれない。脳内は今の状況を理解しなくちゃ、いや理解したくないのせめぎ合い。
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