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一方天音君も自分のクラスメイトに出会したことに驚き、目を見開いている。
「何で」
一言掠れた声で呟き半歩後退した。背後には、すでに息をしていないだろう男が。
独特な雨の香りと生々しい鉄の匂いが混ざり合い、鼻腔を掠める。
天音君は私に向けた拳銃をゆっくりゆっくり下に下げ、トリガーに掛けていた指を外す。
「処理して」
短い言葉を天音君が誰ともなく告げると、黒スーツの若い男が2人突然曲がり角から出てきて息絶えた男を担いだ。
一言も喋らないで私には目もくれず、機械的に行動する2人。
アスファルトのでこぼこの間を伝い、男の暗褐色に変化した血が雨と共に広がっていく。
処理って、何?これからどうするつもり?私は何をされるの?
天音君、これはどういう状況なの。私は何をしたらいいんだ。警察か、でも天音君は、同級生で。だって一緒の教室で今日だって勉強してて。
現状から目を逸らすこともままならないで突っ立っていると、拳銃を手に携えた天音君が近づいてくる。
「着いてきて」
「え、わっ」
天音君に手首を捕まれ引っ張られる際に視界の端に自分の赤い傘が映り、危うく忘れるところだったと空いている方の手で柄の部分を持った。
引っ張る天音君の手は、酷く冷たくて。
それは、血が通っていないんじゃないかと、思う程に。白く綺麗な肌だけど人間味が感じられない。
どこまで行くんだろうと不安になっていると、ようやく左の道に入り立ち止まった。
同時に、ぱっと腕も離される。
私は何を言われるのか、気が張りつめてしまう。口封じのために恐ろしいことでも今からされるんだろうか。
無事では帰してくれないんじゃ……。もうどうしよう。頭の中は嫌な考えで埋め尽くされた。
「…………ねえ、見たっ……?」
けど天音君の台詞は自分が予想していたものと大きく違っていた。弱々しい声で、途方に暮れたように。
見た、と答えなくても天音君自身分かっているはずだ。
それでも、心の隅で“見てないと言って欲しい”という期待があるのだろう。
天音君は私の沈黙を肯定と受け取ったことで、表情を歪めた。漆黒の揺れる瞳には困惑、哀しみ、動揺、迷いが渦巻く。
「……天音君」
「……」
本降りになった雨が容赦なく私達を濡らすけど、今“赤い”傘を差す気にはなれなかった。
じわじわ体の奥からわき上がってくる感情。
天音君を見てると何だか、自分が泣きそうになる。気持ちが、揺らぐ。
色白の頬やYシャツに返り血が付き、手にはあまりにも制服と不釣り合いな拳銃。
高校生には、どう考えても似合わないよ。拳銃が鉛のように、重そうだ。
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