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未来と創太は大学時代に出会った。
お互い何となく参加したコンパで、何となく座ったら、たまたま隣同士になった。
そんな感じだったので最初は会話も弾まなかったが、目指している業界が同じだと知って、一気に距離が縮まった。
何かと口実をつけては、開催されるそんな集まりで、女の子にどうやってモテようかと手に取るようにわかる男子が多い中、受け流すようにして女の子と接している創太のことが未来は気になった。
知り合った頃は、見た目通りの硬派に見せる作戦かとも思ったが、周りの女友達が、みんな同じような印象を抱いていたので、好感を持つようになった。
やがて彼から告白をされた時、思っていた以上に、自分が創太に惹かれていたことに気がついた。
つき合い始めて、しばらくすると就職活動がスタートした。
一般企業のマーケティング部などにもエントリーしながら、なんとか2人とも希望していた広告代理店から、内定を貰った。
就職する会社は違ったが、お互いにやりたかった業界へ進むことが出来たのだ。
仕事もプライベートも充実していた。
休日のデートは、美術館に出掛ける日もあれば、ひたすら街を歩き、溢れる広告を見て回る日もある。
側から見れば、そんなデートの何が楽しいんだと言われそうだが、好きな世界が好きな人と同じということは、とても幸せなことだった。
しかし、お互い仕事にやり甲斐を感じれば感じる程、経験を積めば積む程、忙しくなって会うことさえままならなくなっていった。
「一緒に住まないか?」
そんな日々が続いていたある日、創太が言った。
「家のこととか、そんな事は気にしなくていい。
できる人ができる範囲でやっていこう。
それよりも何よりも一緒にいられる時間に、未来の
ことを感じていたいんだ。」
未来は素直に嬉しかった。
そうして創太が住んでいたマンションに、未来が引っ越す形で一緒に暮らし始めた。
5年前のことだ。
実際に一緒に暮らしてみると『気にしなくていい』では済まないことが、いろいろと出てくるものだ。
赤の他人が同じ屋根の下に暮らすのだ。
小さな衝突は何度もあった。
でも彼は、女だからということを理由にして、あれこれ言ってくることはなかった。
お互いのやり方が違えば、合わせるか引くしかない。
好きだからこそ、折り合いをつけられる。
そうやって少しずつ、2人の仲は深まった。
仕事は益々忙しくなった。
締切前は、会社で寝泊まりすることも珍しくない。
ただ、未来が勤める会社の方針は、女性は極力日付が変わる前に退社させることになっていたので、帰ってこないのは、もっぱら創太の方だった。
一緒に住まなかったら、もっと早くダメになっていたのかもしれないな、と思うことがよくあった。
お互いの仕事を理解しすぎているあまり、すれ違いをすれ違いと思わず、これ以上のパートナーはいないと固く信じていた。
固い物ほどポキッと折れやすいということを、忘れていたのだ。
突然、芽生えた漠然とした不安。
『未来の未来は、どうなっている?』
とライターらしからぬ落書きをして
「ヤバい。」
と落ち込む。
未来なんて誰もわからない、そんなことは当然だと、どうしても思えなくなってしまっていた。
目は覚めているのに、なかなかベッドから起き上がれない休日、そんな気持ちで過ごす日々だった。
そんな時、そんな状態から這い出すきっかけとなる、出来事が起きた。
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