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全ての身支度を終えて、未来(みき)はソファーに座った。 ひとりの時間はたっぷりあったから準備万端、忘れ物はないはずだ。 スマートフォンと腕時計と目覚まし時計を、目の前のテーブルに並べた。 1秒と狂わず同じ時間が流れている。 それは唐突に芽生えた疑問だった。 あの日、目の前にあったのは、かわいらしいバースデーケーキ。 小さなケーキには、立てるのが難しくなったろうそくは、『2』と『9』の2本になって、目に飛び込んできた。 誕生日のクライマックスに、満面の笑みを浮かべていた未来は、ゆらゆらと揺れている、ろうそくの火を見ながら、心がぐらつくのを感じて、慌てて火を吹き消した。 私、このままでいいのかな? 生意気にも、年齢を重ねるということを、初めて意識した瞬間だったかもしれない。 もともと行動力がある方ではない。 目の前に置いたスマートフォンも腕時計も、5年以上使っている物だ。 『愛着』とは違う気がする。 壊れないから使い続けているだけだ。 この部屋の主である、道田創太(みちだそうた)との付き合いも、9年になろうとしていた。 もちろん彼とは『壊れないから』という理由で、一緒にいたわけではない。 今でも好きだ。 そして彼も変わることなく、未来を思ってくれているだろう。 だからこそ時間を教えてくれる物を全て、目の前に置いたのだ。
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