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そんな右手に、突然濡れたようなひやっとした感触がして私は驚く。
緩慢に頭を向けると、さっきのキジトラ猫が鼻先を寄せてくんくんしていた。こいつ、さっきは大ネズミとひとまとめに私のことも威嚇したくせに。
「お。こいつ懐いたか?」
「どうだろうね……キジトラ猫は警戒心が強いっていうから」
「キジトラ?」
「こういう柄の猫。奈良時代に中国から経典が運ばれてきたとき、ネズミ除けのために一緒に船に乗ってきたのがキジトラだったんだって。だから日本にはキジトラ猫が多い」
「へー」
興味なさそうに薄ーく相槌を打ちながらも、シモンはしゃがんでちょいちょい猫にちょっかいを出しながら笑った。
「守り神ってわけだな。自分の縄張りでぎゃーぎゃーやられてたらそりゃ怒るよな、あいつらがわりぃよな」
私は悪者かよ。おまえは無関係かよ。っていうのはスルーして私は尋ねてみた。
「西洋では違うの?」
「あ?」
「猫の扱い」
「猫ってのは嫌われ者だからな。魔女の手下だって魔女裁判の頃にはたくさん殺された」
「……ああ」
「そんでペストが流行した」
「あー……」
「だからネコもネズミも嫌われモンだ」
「人間の解釈でひどい目にあってるんだね」
「動物はみんなそうだろ。人間の乱獲や環境破壊のせいで絶滅した動物はたくさんいる」
「そうだね」
因果応報だ。生態系を破壊したしっぺ返しは必ず起こる。誰もがもうその事実を知っている今、これから何をしていくのかが問題なのだろう。
いつの間にかキジトラ猫はいなくなっていた。猫ってのはまったく気紛れだ。そういうところも私はキライじゃないけど。
シモンが自分の上着のポケットにねじ込んであったペットボトルの水を出した。自分で飲むのかと思って見ていたら、いきなり私の左腕にぶちまけてくれた。
「ばっ……予告なしでやるなっ」
「うっせ、動くな」
「しみるよーいたいよ~」
それまで感覚がほとんどなかったのにじんじんと引き攣る痛みで私はさっきの大ネズミみたいに足をばたばたしちゃう。しかもシモンのヤツ、傷からだらだら流れ出した私の血を舐め始めたのだ!
ぎゃあああ。親切で傷口を洗ってくれたのかとちょっと心が暖かくなったのにコイツこれがやりたかっただけかよ!
「バカやめろヘンタイ!! おまわりさーん!」
「うっせ、噛むぞ。こっちはガス欠状態で動いてやったんだ。どうせ垂れ流してるもんならよこせ」
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