第二話 窮鼠猫を噛む

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 慎也さん、待っててくれたんだな。  寝て起きてみて自覚した。じんわりと手のひらが熱くて、からだ全体が火照ってる。これは私にとってはよくある症状。水分不足で体温が上がるみたいに、足りないものがあるから熱っぽくなる。 「もうどこも痛くないから、来てください」  私も自然と声を低めてひとりごとみたいにつぶやいちゃう。  ゆらっと夜気が動いて私の隣に慎也さんが横たわった。  目の前の浴衣の胸元にすり寄ると、お湯とせっけんの匂いがした。男臭さがまったくないわけじゃないけれど、慎也さんはあくまで爽やかだ。私はきゅんとなるのと同時に切なくなっちゃう。  私好みの草食系イケメンなばっかりにこんな色気のないオンナの相方にされちゃってさ、ほんと申し訳ないと思ってます。でも私だって慎也さんがよかったんだもん、しょうがない。どうせするなら好きな人としたいもん。  自分でも熱いと感じる両の手でごそごそ浴衣の裾を探って慎也さんに触れる。 「十和子さん、そんなこと」  たしなめるように言われたけど、私はまだ柔らかいそれを両手で包む。 「だって、その気になってもらえなかったら困るし」 「その気にならなかったことなんてないですよ」  ほんとかなぁ? 私はちょっと意固地になっておでこを慎也さんの胸にくっつけたまま手を上下させる。筋張ってきた手応えが嬉しくてもっとしごく。 「十和子さん」  頭越しに聞こえる慎也さんの声が低くなって、調子に乗りすぎたかな、と私は首を竦める。すると頭をなでなでされた。  なんで? って顔を上げると唇が近づいて軽く口元に触れた。予想外でびくっとしちゃったけど、すぐに私からキスを迎える。  くちびる、がさがさで恥ずかしいな、いつものことだけど。頭の隅で考えながら角度を変えてくちづけを深くしていく。段階を踏むことで首のうしろの震えがゆっくりとからだに広がって肌の下にじんと熱がこもる。 「……あの失礼な吸血鬼に何か言われましたか」 「う……」 「教えてください」 「色気がないって……」  答えてみて、自分気にしてたのかーなんて我ながらおかしくなった。恥ずかしくてへらっとヘンな笑みを浮かべていると、慎也さんの腕が背中に回ってぎゅうっとハグしてもらえちゃった。 「十和子さんはこんなに可愛いのに」  ……ずるいよ、慎也さん。こういうときにそれはずるい。その気にさせといて責任とってくれるのかな。それとも何も考えてないのかな。なんか後者っぽいなー。
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