第三話 夫婦喧嘩は犬も食わない

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「お、やっぱりカワイイ女の子じゃん。ラパンに乗ってるのはカワイイ女の子に決まってる」 「黙れボケ。あっちいってろ」 「ひどい。最初に気にしたのオレなのに」  女性の背後から男性の声もして、カップルが痴話げんかを始めたのかとなるみは思ってしまった。  名誉のためにいっておこう。彼らは断じてカップルなどではない。  その男女とは、私とマモルだったのだから。  具合が悪そうでもないなるみだったけれど、泣いていたのがまるわかりな様子が気になって、私はついついおせっかいでコーヒーショップの店内へと彼女を誘った。  先立つものがないと言う彼女を「奢るから」と口説いたわけでナンパそのもだったけれど、大人しくついてきたなるみは疲れた顔つきで私とマモルと一緒にテーブルに着いた。 「で、どうしちゃったの? 暗い顔しちゃって。悩みがあるならコイツに話してみなよ。コイツんち神社でさ、なんでも悩み相談受け付けてくれるから」  私自身は募集した覚えはないのにいつも勝手に厄介ごとを持ってくるのはマモルじゃないか、と内心で毒づいてみながらも、わりかしそれが私の本来のお仕事であったりするから、知らず知らずのうちにサポートしてくれちゃってるマモルって便利なオトコすぎるだろうと思わなくもない。  今も、下心がありさそうでなさそうな、いややっぱりそりゃああるのだろうけども、そんな絶妙なノリでなるみにぐいぐいいってる。  これで嫌われもせずに、いや微妙にウザいと思われているだろうけど、それでもめげずに、っていうか本人は気づいてないだけなのだろうけれど、こうやって人脈を広げるマモルは実に重宝な人材なのかもしれない。  またなるみも素直に自分のことを語り始めちゃったりして、「人妻なの」と悶えているマモルを押しやり、本日のブレンドとチョコチップクッキーを交互に口にしながら私は彼女の話を聞いた。  ダンナさんとは共通の知人の紹介で知り合ったこと。二回目のデートで交際することになったこと。  なるみには生まれつき持病があり、治療もあるのでなかなか働けないということ。子どももできにくいかもしれないということも承知の上でプロポーズされたこと。  彼は入社二年目の二十四歳、なるみはまだ二十歳になったばかりで、早すぎるだろうと反対する彼女の両親を彼が説得して結婚に至ったこと。  彼女の口振りから、なるみがいかにダンナさんを好きで愛していて尊敬していて影響されているかが伝わってきた。
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