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「お掃除とかお料理とか、わたしなりに頑張ってるつもりです。なのに、そんなこと言われて」
なるみはぼんやりした目つきでリッドの飲み口を上げてもいないタンブラーを見やっている。
「ひっでえな。なんだよそれ」
口の中に放り込んだ最後のクッキーを味わっている間にマモルに先を越された。
「そういうことは、もし思っても口には出さないのがグローバルスタンダードだろ」
その言い方には笑ってしまったけれど、マモルは間違ってない。
「言い返してやりゃいいじゃん。おまえなんか稼ぎも少ないくせにって」
「そ、そんなっ」
思ってもいないことだというふうに目を瞠るなるみの横で、私もマモルに向かってじとっと目を細めてやった。
「それじゃあどっちもどっちになっちゃうでしょうが」
「だってムカつくじゃん」
「気持ちは行動で示したんだから、まずはいいと思うよ」
そっと視線を移すと、私と目が合ったなるみははっとした顔でやっとタンブラーに手をかけた。
「とっさに出てきちゃっただけで。なにも、まだよく、わからないです」
なるみがコーヒーを飲むのを見守ってから訊いてみた。
「で、どうする? 家に帰る?」
ふっくらしたかわいらしい頬をこわばらせ、なるみはまた目を潤ませて俯いた。
「帰りたくないです」
「じゃあ今夜はどうするの? 実家は近く?」
「近いですけど、実家にもあまり。ネットカフェに行こうかと考えてましたけど」
先立つものがないんだもんなあ。私は自分のカバンの中の財布を手に取り樋口一葉さんを出してなるみの手に握らせた。
「え、あの」
「無利息で貸してあげる。ここに返しに来てね」
付箋タイプのメモにものすごーく簡単な地図を書きつけてわたすと、なるみはうるうるした目のままこっくり頷いた。
店を出て駐車場でなるみと別れた後、マモルに言われた。
「いいのかよ、これっきりかもしれないぜ」
「お金を貸すときにはあげるつもりでっていうでしょ? それならそれでかまわないよ」
「トワってオトコマエだよなあ」
私は肩をすくめてマモルに手を振り、原付(ビート)に乗って帰宅した。
ほんとはコーヒーをテイクアウトするつもりで行ったのにお店でのんびりしちゃったから遅くなってしまった。慎也さんにめってされちゃうかなあ、なんて思ってにやつきそうになる顔をなんとか引き締めて居間に顔を出す。すると、
「遅かったですね、十和子さん」
めっと顔をしかめる慎也さんの手にはハサミ。居間の畳の上には新聞紙が敷かれ、台所のテーブル用の椅子がそこにある。その椅子に、風呂敷を肩に巻いたシモンが座っていた。
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