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なんだそれ、なんだそれ、なんだそれー!? 私がいない間に慎也さんに髪切ってもらうとか、どういうつもりだ、コラ!
殺意に満ちた視線の先でシモンはぶるっと頭を振った。
「すげえ、頭が軽くなった」
「それは良かったですね」
そっけなく返しながらも慎也さんはシモンの方に向き直って真剣な表情になる。
「まだ少し整えるからじっとして」
「おう」
ずっるうううい! ふたりだけで会話して!
「慎也さん、私も!」
振り返って私を見つめた慎也さんは、困ったように微笑んだ。
「それ以上短くすると髢(かもじ)が付けられなくなるからダメです」
そんなあぁ。
「じゃ、じゃあ、前髪! 前髪切ってください!」
「わかりました。少し待っててくださいね」
了承をもらってほっとした私は、通学用のデイバッグを置いてよくよく様子を眺めた。
新聞紙の上には切り落とされた赤茶の髪がこんもりしていて、シモンってこんなに髪が長かったんだなあ、寝起きはいつもサダコみたいだったもんなあ、巻き毛だから余計にうっとうしくてさあ、なんてことを思う。
「かもじってなんだ?」
「付け毛のことだよ。ウィッグ」
「神事の際には十和子さんも正装なさいますから。はい、もういいですよ」
すっきりと短髪になったシモンは確実に男前度が上がった。今までは優雅なお貴族様ってイメージが強かったけど、髪型が変わったせいで快活で凛々しい騎士様って感じになった。
「お風呂に入ってきてください」
「おう、サンキュー」
よっぽどさっぱりしたのが嬉しいのか、シモンはしきりに襟足をさすりながらお風呂場へと向かった。
慎也さんを手伝って新聞紙の上の髪の毛を片づけてから、いよいよ自分の番だと私はわくわく椅子に座った。
「でも、前髪だってそんなに短くはできませんよ?」
「で、でも。少しうっとうしいなあって。少しだけ」
「では、毛先を少し軽くしますね」
くしを手にして膝を屈める慎也さんの顔が近くなる。私はどきどきしながら目を閉じる。
そうっと優しく髪にくしが通った後、おでこに冷たい金属の感触がかすかに伝わる。さく、さくって軽い音がして鼻先がくすぐったくなる。
私が息を詰めているみたいに、ごくごく近い位置で慎也さんも息を潜めているのがわかる。きゃー、どきどきする! と思ったら、
「はい、終わりました」
えええ、もう終わり? 残念な気持ちで目を開けると、慎也さんはにこにこしながらおしろい用のハケで私の顔に付いた髪を払ってくれた。
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