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翌日の午後は講義がなかったから、昼食は家で慎也さんと一緒に冷やしうどんをいただいた。
空いた時間で境内のお掃除をって思ったけど、正午を過ぎると曇天からしとしとと雨が降り出した。仕方なく居間で腹筋していると、紫色の地に小花模様が散ったアジアンな感じのおしゃれな傘を差した人物が庭へと入ってきた。
「えと……」
傘を傾けて顔を覗かせたのは、昨夜出会った滝沢なるみだった。
「もう来てくれたの?」
「いえ。遅くなりました」
時間があるならあがっていってと誘うとなるみは頷いたので、私は玄関へとまわってくれるよう案内した。
蒸し蒸しするなか来てくれたのだからと窓を閉めてエアコンを入れた後、廊下から玄関へと向かう。すると浅葱色の袴姿の慎也さんがなるみを連れてきてくれた。
お茶は慎也さんにお願いして居間にふたりで落ち着くと、なるみはさっそく樋口一葉さんを返してくれた。
「ありがとうございました」
「いいえー。朝、おうちに帰ったの?」
「はい。ダンナの顔見たくなかったから、もういないだろうなって時間に」
ひょいと肩を上げてくちびるをすぼめたなるみは、ズルをしてかくれんぼに勝ったいたずらっこみたいに見えなくもなかった。
部屋着っぽいゆるっとした服装で疲れた顔つきをしていた昨晩とはがらっと変わり、今うちのちゃぶ台の前に座っているなるみは、前髪をすっきりと上げてメイクもばっちり、Tシャツにレギパンというさっぱりしたコーディネートなのになぜかおしゃれ感が漂うという、とても魅力的な女の子だった。
「準備してあった夕飯しっかり食べて、おちゃわん洗ってくれてありました。ごめんねって置き手紙があって」
「そっか」
「ネカフェで朝起きたときには、わたし何やってんだろうって思って、帰ってそれ見て、なんか力が抜けちゃって」
「はは」
慎也さんが冷茶とお菓子を持ってきてくれて、どうぞごゆっくりなんて言って戻っていった。
なるみが目をきらきらさせて潜めた声で言った。
「優しそうな人ですね〜。同棲してるんですか?」
いやぁ、同棲とか照れるう。むしろフツウに私が慎也さんに寄生してるふうにご近所さんからは見られてるっぽいのだけど。ここはオトナの余裕な感じで思わせぶりに曖昧にしておこう。ささやかなミエである。
「で? ダンナさんは反省してるみたいだけど」
私が強引に話を戻すと、なるみはちょっと俯いた。
「一応わたしも、心配かけてごめんなさいってメッセはしたけど……」
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