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「でも。ダンナは散らかってる、汚いって言うんです」
肩を落として俯くなるみはまたとても疲れているように見えた。
私は私でもう一度リビングを眺めまわして首を傾げるしかない。どこが汚いっていうのだろう。
「ダンナさんってそんなに几帳面なの?」
「……わかりません。ちょっと、細かいことにうるさいなって思い始めたときは、仕事でいやなことがあってイライラしてるのかなって気にしないでいたけど、昨日、急にあんなにキレたから」
カラーボードの上には、写真館で撮ったらしい新郎新婦の記念写真があった。ドレスではなく和モダンな着物姿のなるみとダンナさんが寄り添っている。ダンナさんは笑顔のつくりかたも上手いイマドキのイケメンだ。さわやかで優しそうな。
写真の他には、やたらと犬のグッズが置いてあった。母子犬のモチーフが付いた熊手や犬の張り子が。
「これって子宝祈願?」
「あ、そうなんです。ふたりであちこちお参りに行ったりしてて」
「へーえ」
なるみは子どもができにくい体とも言ってたし、新婚ほやほやで妊活するほどではないけれど自然に授かればって考えなのかな、なんて思いながら実は私はまったく別のことが気になっていた。
「この編みぐるみはクマなんだね。手作り?」
「それ、ダンナのイトコがくれたんです。中学生の。すごいじょうずですよね」
「へえ」
白いクマと茶色いクマのペアで、それぞれピンク色と水色のリボンを首にまいている。結婚祝いの贈り物にありがちといえばそうかもしれない。
「ダンナのこと、おにいちゃんおにいちゃんてすごい懐いてて。一緒に遊園地に行ったことあるんですけど、カワイイ子ですよ」
「女の子?」
「そうですそうです」
「なるほどねー、触っていい?」
「どーぞー。あ、飲み物持ってきますね、コーラとアイスティーどっちがいいですか?」
「ありがと。アイスティーで」
「はーい」
奥の仕切りの引き戸を開けてなるみがキッチンらしき方へと向かう。その隙に、私は茶色のクマの中から発見したモノを抜き取った。
その後は外が薄暗くなるまでなるみと話し込んでしまった。悩み事だけでなく、まったく赤の他人のコイバナから好きな食べ物の話、なんてことない世間話まで。
なるみは病気を抱えてはいても明るく快活な女の子で、ダンナさんもそういうところに惹かれたのだろうなっていうのがよくわかった。決してヒーロー気取りで彼女を選んだわけではないはずだ。
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