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「来たわよ」
「うん。ありがと。ことよろー」
「あんたはっ。マトモに挨拶もできないの!?」
んもう、毎回毎回おんなじことを怒るなよ。
「あんた、また髪切ったの!? 結えなくなるから切るなって言ってるのに!」
「切ってない切ってない」
「うそ、前髪が少し」
「ストーカーか!」
ぎゃいぎゃい騒いでしまったので、その場にいた人たちの視線がいやでも集まる。
「巫女さん。今年もよろしくお願いします」
三年目ともなると、毎回大祓と例祭の手伝いに来る貴和子と顔見知りの人も多い。私のことなどそっちのけで貴和子はみなさんと挨拶を交わし始めた。
私だって一応「巫女さん」なんだけどなー、そんなふうに呼ばれたことないぞーなんて拗ねてみても普段の行いがものをいうのだから仕方ない。
私は貴和子と一緒に来ているはずの克也を探した。さっそく慎也さんと一緒に茅の輪作りの作業に加わっている。どいつもこいつもマジメか。
こんだけ人手があるなら私はいらないよなー。帰って筋トレするかなぁと家の玄関へと戻ったところで、後ろからがしっと肩をつかまれた。
「さあ、十和子。わたしたちは神楽の練習よ」
貴和子の細い指が肩に食い込む。
一時間後、畳に伸びた私を見下ろして貴和子は鬼の形相で怒っていた。
「なんなの、あの動きは! 筋肉のことばっか考えてないで身のこなしをもっとどうにかしなさい。日頃の鍛錬を怠るからこういうことになるんでしょう!?」
えーん、毎回毎回おんなじことを怒るなよ。
「武は舞に通ずでしょう。そんな荒削りの動きで無駄な力ばかり使って、いずれその怠慢で命を落とすかもしれないのよ!」
うう、わかったからもう怒るなよ。ぐうの音も出ずにいると、うつ伏せに寝転がった頭の上で克也の低い声がした。
「そうは言っても、十和子さんはお強い。当代どころか歴代随一で」
「馬鹿言わないで。師匠(せんせい)の方がずっとずっとお強いわ」
「そりゃあもちろん」
ツンと主張する貴和子に同意しながら肘をついて起き上がる。不用意な発言を侘びて頭を下げた克也とちょうど目が合った。相変わらず堅苦しい男だ。
慎也さんがおやつの準備をしてくれて、四人でお茶を飲んで一休みすることになた。はあ、助かった。
「どーよ? ここ半年は?」
こっちのことはともかく、日本各地を回っている貴和子たちの話が聞きたい。水を向けると、貴和子は面白くなさそうに眉をひそめた。
「良くはないわね。悪くもないけど」
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