おじいちゃんに100点を。

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程なくしてお父さんも帰って来て、お母さんと話をした。結果、二人は仕事が休めない事を理由におじいちゃんに会いに行くのを断念した。 おじいちゃんの子供は二人いて、お母さんとその妹のすみれ叔母さんだ。おじいちゃんはおばあちゃんと一緒に青森市内にあるすみれ叔母さんのマンションに去年の秋から転居していた。こちらにいたのは僕が小一の時からだから約三年程こっちにいてくれたことになる。おじいちゃんと離れる時、僕もおじいちゃんも別れが惜しくて抱き合って泣いた。 すみれ叔母さんは心臓専門の医師だ。お父さんとお母さんは度々入院して、またすぐに退院、という入退院を繰り返すおじいちゃんのことを医師である叔母さんに任せた形だった。 僕は今回お父さんとお母さんが行かないと決めた事が信じられなかった。僕は苛立った気持ちと同時に悲しくなった。おじいちゃんの入院を”いつものこと”、みたいに思っている二人が許せなくて、おじいちゃんが心配で、僕は心を決めた。 こっそりと部屋に戻って、夜の間に準備をした。 押し入れから水泳クラブに行く時用のリュックを出した。でも少し大きすぎて、遠足用に買ってもらった青のスポーツブランドのナップザックに変えた。着替えと下着、携帯ゲーム機、チョコレート菓子とスナック菓子を何個か入れた。明日、出かける時に水筒にスポーツドリンクを入れて行こう。雨が降ったら困るから折りたたみ傘も必要だな。あとはハンカチ、ティッシュとーーーー その時、少し余ったナップザックを見て思った。 行くならおじいちゃんに元気になって欲しい。 去年の水泳大会で一等賞を獲った時に、 お爺ちゃんは凄くニコニコして楽しそうだった。 僕はおじいちゃんに喜んでもらえるようなもの、元気になってもらえそうなものを部屋中、探した。 そして、閃いた。 急いで夏休みに入ってから机の引き出しの中に入れっぱなしだったものを取り出した。 これならーーーおじいちゃん、喜んでくれる。 それが、夏休み最後の算数のテストで取った 人生初の100点の答案用紙だった。 水泳で良い結果を残せないその分、僕は他にやることがなくて、夏休み前のそのテストを頑張ったのだ。算数の苦手な涼太の奴が白い目を剥いて悔しがるところを見たい一心でがんばって猛勉強していたら、獲れた奇跡の100点。 お父さんもお母さんも水泳のことでは最近、僕にため息ばかりついていたけれど、さすがに100点を取った時はニコニコと笑って頭をくしゃくしゃと撫でてくれた。おじいちゃんがしてくれたように。 これならきっとおじいちゃん、喜んでくれる。 元気になってくれる。 僕は確信して、それをナップザックに入れて就寝した。
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