おじいちゃんに100点を。

1/11
45人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
どうしても捨てられないものがある。 今日、大学の学食で友達と昼飯を取っていた僕は向かいのテレビから流れてきたニュース映像に釘付けになった。心臓が早鐘の様に打ち、周りのざわめきが一切途絶え、モニターに映し出された名と顔に思考が停止した。 その後の授業の内容はほとんど頭に入って来なかった。ようやく講義が終わり、ゼミ仲間との飲みの誘いも用事を思い出したと断り急いで家に帰った。 僕は自室の押し入れの奥に潜ってそれを探した。 あった。 ほこりを被ったダンボール。 開けて中を漁る。 黄ばんで皺の寄った算数のテスト。 ”4年1組 川上樹(かわかみいつき)”と決して上手いとは言えない、欄からはみ出すほどに大きな文字。 その横の点数欄には100点と赤ペンで記されている。 むわっと匂い立つように鼻先に夏草の匂いがした。 外はチラチラと雪が舞っているのに。 うだるような日差し。道端に咲く向日葵。 荷物のいっぱい詰まった青いナップザック。 黒いジープが僕の前で砂利を蹴って止まった音が耳元に聴こえてきた。 その答案用紙は、あの夏、4年1組だった僕が人生で初めてヒッチハイクと言う名の『家出』をした日の忘れられない想い出を否応なく呼び覚ました。 僕はそれを眺めながらベッドの上に横たわった。 あの夏の事を鮮明に思い浮かべながらーーー
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!