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欠陥品の男の場合
彼女はまるで、天使のようだった。
一目見た時から、何かが動かされるような、そんな予感がしていた。
どこか浮世離れしていて、話していても掴めない。
まるで自らが生み出した虚像と話しているように、実感がわかない。
名前を清花と言った。彼女は突然俺の前に現れたが、たったの数か月で消えてしまった。舞い散る桜の花弁を掴んだのに、風にさらわれたような気分だ。清花は俺に、こう言った。
「君は、恋愛不適合者だね」
不適合者、なんて言葉を使うのは失礼だ。…でも、当たっている。
俺は今まで一度も深い愛情を、人に対して持ったことが無かった。
心のパラメーターはいつもマイナスの状態で、プラスに働く事がない。
小さい頃は努力をすれば治ると思っていた。でも、どうやら俺は欠陥品らしい。たとえ人の温もりに触れたとしても、心は冷えている。
その温もりを、ただ奪うだけで、何も返せない。
その時に悟った。何をしたところで変わらない、当たり前の事実として受け入れることを、俺は選んだ。
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