1 杏の初恋の相手は、中学校の国語の先生だった

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1 杏の初恋の相手は、中学校の国語の先生だった

 私の初恋は、中学3年の時の国語の先生だった。それまでの私は人と交わる事が苦手で、ましてや男子にはほとんど関心がなかった。そんな私に先生は、人間は一人では何もできないと教え、生徒会に入る事を勧めた。また、いろんな本を紹介して、恋愛の素晴らしさ、恋する事で人は成長する事を解いてくれた。熱心に話す先生の瞳に、恋する感情が自然と生まれていた。  小説を読む事で頭でっかちになった私は、人が恋するとはどういう感情なのか、どういう行動が付きまとうのかを考えていた。小説の中では恋人が愛しくて逢いたいとか、キスやそれ以上の行為の素晴らしさが書かれている。今の私には刺激的過ぎる内容もあったが、恋愛へのあこがれみたいなものが生まれていた。  体育大会が終わった生徒会室で、あこがれれの先生と話をしていた。 「先生は奥さんが、初めて好きになった相手だったんですか?」 「いきなり直球で訊いてくるんだね。朝比奈は誰か、好きな人がいるのかな?」  質問に質問で返された私は、「いないです」と答えた。 「先生は中学で初恋して、高校で初めて交際をした相手がいるよ。どちらも思いは遂げられなかったけど、楽しかったし良い経験だったよ。」 「そうなんですか、キスとかはなかったんですか?」私の際どい質問に、 「その時はなかった!会って話をするのが楽しくて、その内に彼女に好きな人ができて別れたんだ。彼女にしてみれば、先生は物足りなかったのかな。」と 先生は遠くを見つめて、当時の事を思い起こしているようだった。 「それから?初めてキスとかしたのはいつですか?」 「興味津々(しんしん)だな、朝比奈は。大学生になって付き合った女の子とだな。」  照れ臭そうに言う先生に、私は好感を持っていた。 「で、その子が今の奥さんではないですよね。」と聞きにくい事を訊いていた。 「違うよ。彼女とは2年間で別れた。原因は、大学卒業後に遠距離になったことで、意思疎通ができなくなってね。しばらくは続いていたけど、二人とも冷めてしまったのかな。先生もまだ結婚とかは考えていなかったからね。」 「恋して別れての繰り返しか!つらいですよね、それって。好きだからキスして離れたくないと思っても、別れるんですね。不思議ですね、恋愛は。」  私が独り言のようにつぶやくと、先生もつぶやくように答えた。 「確かに不思議だな。その時はどんなに好きでも、何かのきっかけで別れる事もある。別にすごく嫌いになった訳でなくても。」 「先生。結婚したら、他の人とキスしたりしないんですよね。」 「困った事を、ストレートに訊くね!それは、結婚はお互いを尊重して一緒に暮らすという一種の契約だからね。それを破ったら、契約違反になるだろ!」 「そうか、残念!例えば私が先生を好きでも、キスはできないんだね。」  私は隠さずに思いを告げ、応えにくい事を言ってしまい後悔していた。すると先生は、「その通りだよ」と言って、優しく頭をなでてくれた。それだけで、私は充分な気持ちだった。それからも先生には、距離を保ちながらいろいろな事を教えてもらった。
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