3 夏休みに、杏は陽介を家に招きファーストキスをする

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3 夏休みに、杏は陽介を家に招きファーストキスをする

 夏休みに、彼が図書館で勉強しようと誘ってきた。私は喜んで彼の誘いに乗って、図書館に通った。お昼を一緒に食べて、帰りは私の家の前まで送ってくれた。次第に別れ難い思いに駆られて、家の前で長く話している事もあった。そんな姿を姉に見られ注意されたが、「家に呼べばいい」と言ってくれた。私はその気になって彼を誘うと、彼は遠慮しながらも承知していた。  私の家は4人家族で、父は弁護士、母はその事務所で事務員として働いていた。柴嵜さんを招いたのは、家に誰もいない時を避けて、大学生の姉が家にいる日をあえて選んだ。家族への体面を取り繕う事も忘れていなかった。  彼が家に来ると、姉が気を利かして飲み物やお菓子を用意してくれて、話にも加わってくれた。彼は姉に大学の事や、受験勉強について熱心に聞いていた。その後私の部屋に案内すると本棚に立ち止まり、私の蔵書を興味深く眺めていた。読んだ本の感想や、好きな作家について聞いて感心していた。私はそうした彼の生真面目さも好きだったが、少し意志悪をしてみたくなった。 「柴嵜さんは、私のことをどう思っているか、聞きたいです!」 「どうって、杏さんといると楽しいし、教養がある素敵な女の子だと思ってる。」  彼の無難な答えに、私は流石だなと思いながら、イライラもしていた。 「そうじゃなくて、好きとか何とか、聞きたいのに!」 「そ、それを言わせるの?す、好きだよ!」と恥ずかしそうに言った。 「それじゃぁ、キスとかはしたくならないですか?」  私はそう言いながら、うつむいたままの彼に近付き、触れるか触れないか分からないキスを交わした。二人とも真っ赤な顔をしていて、可笑しかった。恥ずかしさでそれ以上は求める事なく、私のファーストキスは一瞬で終わった。    新学期が始まり、生徒会選挙があった。いつもの4人に応援を頼み、対立候補の男子を負かして当選する事ができた。こうして、柴嵜先輩は引退し、その後を継いで生徒会長になった。2回目のキスは、生徒会室で彼との引き継ぎを終えた後だった。帰り際に彼からキスをしてきて、私は嬉しかった。1回目よりは長く唇を寄せ合っていた。その時に、何となくキスの甘い味が分かったような気がした。  それから私は生徒会活動に忙しく、真莉愛もサッカー部を辞めて生徒会に入ってくれた。柴崎さんは本格的な受験勉強に突入していった。2度目のキスの時に、先の事を何も話さなかった事を後悔していた。それでも、図書館で会って話す事もあり、彼の勉強の邪魔にならないように努めた。二人の関係は進展しなかったが、お互いに名前で呼ぶようになっていた。  陽介さんは京都の第1志望の大学に合格した。彼は真っ先に私に連絡をくれ、私も真っ先に会いに行った。図書館前の芝生の所で、 「陽介さん、おめでとう!私、嬉しくて。」と私は彼に抱き付いた。そして、自然に二人の唇が触れ合い、長いキスになった。抱き合ったのは初めてで、背中に廻された手、密着した胸と腰から、彼の温かさを感じ取っていた。  3月の卒業式には、私が在校生の送辞を読み、陽介さんが答辞を述べた。照れ臭いと同時に、二人の関係が公に認められたような錯覚を覚えていた。式の後、生徒会室で最後のお別れをした。 「寂しいけど、仕方ないよね!京都に遊びに来たら、案内するからね。」  彼の優しい言葉に、私は夏休みに京都に絶対会いに行くと約束した。
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